コラム

トランプ政権の敵対的通商政策で日本側が持ち出すべき材料とは?

2018年04月03日(火)13時15分

日本側は米国が日本を適用除外にしてくれることを望んだが、その期待はあっさり裏切られた格好だ。しかもトランプ氏は「日本の安倍首相らは、米国をうまくだましてきた。そんな日々はもう終わりだ」というかなり手厳しい発言まで行っている。

米国の保守派が日本に対して親和的とは限らない

安全保障はデリケートな問題であり、判断も恣意的になりがちなので、通商交渉では安易に持ち出さないのが一般常識である。おそらくトランプ氏はこのあたりに無頓着なので、より強力な交渉ツールとして、この条項を発動したものと思われる。しかしながら、交渉の一環とはいえ、安全保障問題において日本が中国と同列に扱われたという事実は重い。

トランプ氏は、中間選挙を意識してか、外交面でも大きく舵を切っている。政権の屋台骨ともいえるティラーソン国務長官に続いて、安全保障担当の大統領補佐官であったマクマスター氏も解任。後任の国務長官には北朝鮮強硬派のポンペオCIA長官を充て、補佐官には過激な言動で知られるボルトン元国連大使を据えた。

ボルトン氏は、保守強硬派として知られ、イラク戦争の際には大きな影響力を持った人物である。また国連に対して否定的であり、国連大使在任中には国連を批判する発言を何度も繰り返していた。

日本は北朝鮮問題が重くのしかかっているということもあり、米国の保守強硬派に期待する雰囲気が一部にある。だが、米国の保守強硬派は中国や北朝鮮に対して強硬なだけではない。日本を含むアジア全般に対して強硬というケースが多い。

ボルトン氏はかつてオバマ前大統領が広島を訪問した際、激しい批判を行っているし、選挙期間中とはいえ、トランプ氏は日米安保の見直しを口にした人物である。北朝鮮や中国の脅威にさらされているからといって、日本に対して無条件に親和的とは考えない方がよいだろう。

カギを握るのは米国産エネルギーの輸入

一連の措置によってトランプ政権がもっとも敵視しているのは中国であり、次のターゲットが日本であることがほぼ確実となった。まずは中国との交渉が最優先されるだろうが、いずれその矛先は日本に向かってくるだろう。

では日本はどうすればよいのだろうか。

トランプ政権は、今回の制裁措置の発動に際し、中国に対して1000億ドルの貿易赤字削減を求めたことも明らかにしている。こうした事実を考え合わせると、米国との交渉のカギを握るのは貿易赤字の金額と考えられる。逆に考えれば、個別の品目で交渉するのは当然としても、貿易赤字の総額を減らせる措置を提案できれば、交渉を有利に進められる可能性は高い。

米国側はパッケージ・ディールの一環として特定分野の市場開放を持ち出してくる可能性もある。だが、国内の調整に手間取り、常に受け身の交渉となってしまっては相手の思うツボだ。

日本側が持ち出す具体的な交渉材料として有益なのは米国産エネルギーの輸入拡大だろう。米国はこれまでエネルギーの輸出を禁じていたが、シェールガス開発が進み、国内の石油が余剰になっていることから、石油や天然ガスの輸出に舵を切った。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米ミシガン大消費者信頼感11月確報値、71.8に上

ワールド

レバノン南部で医療従事者5人死亡、国連基地への攻撃

ビジネス

物価安定が最重要、必要ならマイナス金利復活も=スイ

ワールド

トランプ氏への量刑言い渡し延期、米NY地裁 不倫口
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでいない」の証言...「不都合な真実」見てしまった軍人の運命
  • 4
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 5
    プーチンはもう2週間行方不明!? クレムリン公式「動…
  • 6
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 7
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 8
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 9
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 10
    巨大隕石の衝突が「生命を進化」させた? 地球史初期…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 5
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 6
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 7
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 8
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 9
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 10
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 10
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story