コラム

相続税対策のアパート建設に急ブレーキ。将来の時限爆弾になる可能性も

2018年02月06日(火)11時25分

具体的には地方から東京への人口シフトが進むことになるが、この動きは「東京」対「地方」という単純な図式にとどまらない。地方の中でも「地方中核都市」と「その他の地域」、東京の中でも「23区」と「郊外」といった具体に、一種のフラクタル(どのスケールで切り取って同じ形状が観察される幾何学上の概念。自己相似)になっている。

そうだとすると、地方都市の郊外に建設されたアパートの一部は、10年後、著しい賃貸需要の低下に直面する可能性が高い。つまり大量の空室が発生するわけだが、この問題は進行が緩やかであるため、多くの人が状況を認識するまでにかなりの時間がかかる。

最近、建設されたばかりのアパートは、募集をかければ、すぐに多くの入居者が集まってくるはずだ。現時点において人口減少はそれほど激しくないので、近隣にある築年数の古いアパートも、空室はほどなく埋まるだろう。だが、人口減少が本格化するのはこれからなので、10年後にはまったく違った環境になっている可能性が高い。

最初に異変が発生するのは築年数の古いアパートである。当初は1カ月で空室が埋まっていたところが、数ヶ月の募集期間を確保しないと空室が埋まらなくなる。だがこの時点でも、新築アパートの需要はそれなりに高く、古いアパートも最終的には空室が埋まるので、多くの所有者は異変に気付かない。

何らかの公的な支援が必要となる可能性も

やがて近隣の古いアパートの中に、いつまで経っても空室を埋められないところが出てくる。こうした状態がしばらく続き、やがて、以前は新築だったアパートにも空室化の波が押し寄せてくる。もし所有者に資金的な余裕があれば、リニューアルを行って、入居者をつなぎとめるということも可能だが、こうした資金的な余裕がなければ、状況は一気に悪化するだろう。

人口の減少が本格的に進んだ地域では、銀行が貸し付けた資金を回収できず、一部の物件は、いわゆる不良債権化する。バブル崩壊後、銀行各行は不良債権処理に苦しんだが、似たような状況に陥る地方銀行が出てくる可能性はゼロではないだろう。

当時は、その後の経済成長をアテにして、時間をかけて不良債権処理を進めるという手法が採用された。だが、人口減少による地域の衰退は不可逆的なものであり、景気回復を待つという手段は選択できない。その状態を放置すれば、地域金融機関の経営が危なくなり、金融システム不安の引き金を引いてしまう。

過剰に建設されたアパートがどの程度のインパクトをもたらすのか、現時点では何ともいえない。だが、憂慮すべき事態であることは間違いない。もし、銀行の基礎体力を超えるような事態となった場合には、何らかの支援策も必要となってくるだろう。

考えられるのは、公的資金を使って売るに売れない不動産を引き取り、これを流動化した上で、金融機関の損失処理を促すといったスキームである。人口減少がもたらすインパクトは想像以上に大きいことを考えると、こうした事態についても、ある程度、想定しておく必要がありそうだ。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

韓国尹大統領に逮捕状発付、現職初 支持者らが裁判所

ワールド

アングル:もう賄賂は払わない、アサド政権崩壊で夢と

ワールド

アングル:政治的権利に目覚めるアフリカの若者、デジ

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 4
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 5
    女性クリエイター「1日に100人と寝る」チャレンジが…
  • 6
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 7
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
  • 8
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 9
    本当に残念...『イカゲーム』シーズン2に「出てこな…
  • 10
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 5
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story