コラム

ローソン不振の原因は経営者か親会社か

2017年05月09日(火)11時40分

玉塚氏の在任中、各店舗の売上高は増えなかった

加盟店を含むチェーン全体の売上高(コンビニエンスストア事業)を見てみると、就任後、初の決算となった2015年2月期こそ売上高が減少したが、2016年2月期は1.4%増、2017年2月期は4.2%増と、拡大基調を維持してきた。もっとも、単純に売上高を増やすだけなら、経営者としてそれほどの力量は必要ない。各店舗の採算を考えずに、大量に新規出店を繰り返せばよいからである(各店舗の利益が減っても短期的にはローソン本体には影響がない)。

しかし、加盟店が儲からなければ長期的にはデメリットの方が大きくなってしまうため、無理に新規出店を進めることは現実的に難しい。このあたりの舵取りがフランチャイズ・ビジネスのカギであり、コンビニ経営者の力量ということになる。

同じ期間における1店舗あたりの売上高を見ると、いずれの期も、玉塚氏就任前を下回っている。現場に視点を移した場合、ローソン各店の売上高はむしろ減少してきたというのが現実である。この数字だけで断言することはできないが、玉塚氏がシェア拡大を優先し、少々無理な出店を行った可能性は否定できない。

ちなみに1店舗あたりの平均的な売上高を比較すると、ローソンは約1億6000万円ほどだが、業界トップのセブンは2億3000万円とローソンの1.4倍もある。玉塚氏の在任中、セブンとの差についてもほとんど縮まることはなかった。

ローソン本体の業績はともかく、チェーン全体の数字を見る限り、玉塚氏のトップとしての成績は今ひとつだったということになる。だが、この部分だけを見て経営者の力量を判断するのは早計だ。特にローソンの場合、大株主である三菱商事との関係というやっかいな問題が存在しているからである。

三菱商事はローソンの大株主であり、同時にローソンの取引先でもある。この関係は場合によっては、ローソンと三菱商事に利益相反をもたらす可能性がある。ローソンは小売店なので、仕入れ先からはできるだけ商品を安く調達した方が儲かる。一方、小売店に商品を納入する卸(ここでは三菱商事がこれに該当する)はできるだけ高く売った方が利益が大きい。

三菱商事から見ると、ローソンに商品を高く買ってもらえれば、自社は儲かるが、ローソンの業績が悪くなってしまう。逆にローソンに対して安売りをすれば、ローソンの業績は拡大するものの、自社の業績は下がる。

【参考記事】アマゾンがコンビニ進出! Amazon Goは小売店の概念を180度変える

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

任天堂、「スイッチ2」を6月5日に発売

ビジネス

米ADP民間雇用、3月15.5万人増に加速 予想上

ワールド

脅迫で判事を警察保護下に、ルペン氏有罪裁判 大統領

ビジネス

貿易分断で世界成長抑制とインフレ高進の恐れ=シュナ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    あまりにも似てる...『インディ・ジョーンズ』の舞台…
  • 6
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 7
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 8
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 9
    イラン領空近くで飛行を繰り返す米爆撃機...迫り来る…
  • 10
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 5
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 6
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 7
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story