コラム

消費増税の再延期で高まる日本経済「本当の」リスク

2016年06月14日(火)16時47分

Thomas Peter-REUTERS

<極端な悲観論や過度な楽観論が飛び交っているが、消費税増税の再延期で懸念されるのは、国債が紙切れになることではなく、金利の上昇により日本経済に大きな影響が及ぶことだ>

 安倍首相は、来年4月に予定されていた消費税増税の再延期を決定した。再延期が実施された場合、政府が掲げる財政再建目標の達成はほぼ不可能となる。日本の財政をめぐっては、国債が紙切れになるといった極端な悲観論が出る一方、借金は大した問題ではないといった過度な楽観論も台頭するなど、ちょっとした混乱状態にある。

 現実問題として、日本の国債が紙切れになる可能性は限りなく低い。だが私たちが懸念すべきなのは、国債が紙切れになることではなく、金利の上昇リスクである。それだけでも経済に対するインパクトが大きいということを認識しておく必要があるだろう。

【参考記事】消費税再延期も財政出動も意味なし? サミットでハシゴを外された日本
【参考記事】増税延期に使われた伊勢志摩「赤っ恥」サミット(前編)

日本は財政再建目標を放棄したとみなされる

 日本政府は2020年度までに基礎的財政収支(プライマリーバランス)を黒字化するという財政再建目標を掲げている。プライマリーバランスの赤字そのものが問題なわけではないし、逆に黒字だからといって大丈夫というわけでもない。プライマリーバランスはあくまで指標の一つでしかない。だが、政府がこうした財政再建目標をわざわざ国際公約として掲げてきたのは、日本政府の債務比率が他国と比べて突出して高いからである。

 政府債務がどの程度の水準であれば妥当なのかについて明確な答えがあるわけではない。そうであるが故に、最終的な評価の基準となるのは各国との比較であり、相対的に高い負債比率となった国は、市場からリスク要因とみなされる可能性が高まってくる。日本の財政当局が懸念しているのはこの点である。

 日本の政府債務のGDP(国内総生産)比は、資産との相殺を行わないグロスの数値で約250%(IMF)と先進国の中では突出して高い。ちなみに米国は約100%、ドイツは約70%となっている。

 国内では日本政府は資産をたくさん持っているので大丈夫だという議論があるが、資産との相殺を行ったネットの数値においても日本の政府債務比率は先進各国中トップである。

 さらに言うと、政府が保有しているという資産の中身にも少々問題がある。2015年3月末時点において日本政府は1400兆円近い負債を抱えているが、一方で930兆円の資産も保有している。このうち150兆円程度(当時の為替レートを適用)は外貨準備なので、換金性が高く価値が担保された資産とみなしてよいだろう。だが、それ以外の資産の中には、地方自治体や独立行政法人に対する貸付け、固定資産などが含まれており、種類によっては資産価値がほとんどないものがある。単純に資産を持っているから大丈夫という議論は適切ではない。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲うウクライナの猛攻シーン 「ATACMSを使用」と情報筋
  • 4
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 5
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさ…
  • 6
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 7
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 8
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    雪の中、服を脱ぎ捨て、丸見えに...ブラジルの歌姫、…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 6
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 7
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 8
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story