コラム

北海道新幹線は、採算が合わないことが分かっているのになぜ開通させたのか?

2016年04月12日(火)14時33分

整備新幹線という国策であるがゆえに、収支の見込みがないまま北海道新幹線が開業したが、果たして今後赤字を解消する施策はあるのか(北海道観光振興機構によるウェブサイトhttp://shinkansen-access.visit-hokkaido.jp/)


〔ここに注目〕JR北海道の経営母体

 北海道新幹線が開業早々、乗車率の低迷という逆風に見舞われている。収支の見込みがないままの開業だが、JRという民間企業においてこうした事態が発生してしまうのは、整備新幹線という国策が今も継続しているからである。札幌まで延伸されれば状況は好転するのだろうか、また、国策であればこそ打てる施策はあるのだろうか。

札幌まで延伸されても基本的な状況は変わらない

 3月26日の開業日には北海道各地で記念イベントが実施され、お祭りムード一色となったが、開業初日の乗車率は61%、翌27日は37%と厳しい現実を見せつけられた。JR北海道では、北海道新幹線の年間収支について48億円の赤字と見込んでおり、当面はこうした状況が続く可能性が高い。

【参考記事】ようやく開業にこぎ着けた北海道新幹線の今後の課題

 現時点において北海道新幹線の収益性が低いことは、特に驚くべきことではない。函館(新函館北斗)が発着駅という状況では、そもそも大きな需要が見込めないからである。函館は観光都市ではあるが、ビジネス用途の乗降客はそれほど多くない。北海道最大の拠点である札幌のビジネス客が新幹線を利用するためには、在来線を使って函館まで移動する必要があるが、乗り継ぎが面倒である。

 しかも、函館から先で乗降客が多い都市は仙台と東京しかなく、両都市には、札幌から多数の飛行機が飛んでいる。多くのビジネス客は、新幹線開業後も引き続き飛行機で移動する可能性が高いだろう。現時点では観光目的の人と、青森-函館を移動する人が利用するのみという状況であり、需要は限定的とならざるを得ない。

 北海道新幹線が函館から札幌まで延伸されるのは15年後の2031年の予定だが、200万人近い人口を抱える札幌まで延伸されれば状況は好転するのかというと、そうでもなさそうだ。

 高速鉄道は所要時間が4時間を超えると飛行機に対抗できないといわれており、有利な状況で競争できるのは3時間以内というのが定説となっている。現在の北海道新幹線の所要時間は、東京-函館間が約4時間、仙台-函館間が約2時間30分である。

 札幌まで延伸された場合には、これに45分から1時間がプラスされるため、最短でも東京-札幌は4時間45分、仙台-札幌は3時間15分かかってしまう。東京-札幌間は4時間を超えているので基本的に飛行機には対抗できず、仙台-札幌も3時間をオーバーしてしまうため、新幹線の圧倒的優位性は消滅する。

 では、JR北海道はこうした状況を想定できないまま新幹線を開業させたのだろうか。もちろんそうではない。札幌まで延伸されたとしても十分な需要がないことは、当初から想定されていた。それでも新幹線のプロジェクトが進められたのは、整備新幹線という国策が存在するからである。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

FRB、一段の利下げ必要 ペースは緩やかに=シカゴ

ワールド

ゲーツ元議員、司法長官の指名辞退 売春疑惑で適性に

ワールド

ロシア、中距離弾でウクライナ攻撃 西側供与の長距離

ビジネス

FRBのQT継続に問題なし、準備預金残高なお「潤沢
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 5
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    若者を追い込む少子化社会、日本・韓国で強まる閉塞感
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 10
    中国富裕層の日本移住が増える訳......日本の医療制…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story