コラム

来年に向けて日本人の一番の薬は「マゾ的思考」をやめること

2024年12月14日(土)16時40分

ドイツ経済はいま苦境にある(写真はフォルクスワーゲン従業員の賃上げスト、12月) JULIAN STRATENSCHULTEーPOOLーREUTERS

<日本で騒ぐほどドイツ経済もインド経済も順風満帆ではない>

今年もビッグニュースの連続だった。やれドイツが、そしてインドが日本をGDPで抜いていく──とか。しかしいま点検してみると、トランプ再選を除けば、「それほど大したことではなかった」ものがほとんどだ。

問題は、メディアがその点検をせずにおくものだから、われわれの頭には最初の大げさな見出しが実際に起きたこととして頭に刷り込まれてしまうことだ。例えば、「ドイツが日本をGDPで抜いた」「インドが2025年、日本をGDPで抜く」という先走った報道が、「日本は沈む一方」という日本人のマゾ的な諦めをますます強固なものにしてしまう。


IMFは23年10月の世界経済見通しで、「23年はドイツのGDPが日本を抜いて世界3位になるだろう」と予測した。これは、ドイツより日本で騒がれた。ドイツ人にしてみれば、ドイツが低成長とインフレに苦しんでいるときにIMFは何を言う、という気持ちだっただろう。

ドイツ経済は、05年までの社会民主党シュレーダー政権の時代に労働者の権利を制限することで賃金の上昇を抑え、さらに10年代後半のユーロ安に乗って輸出を急増させた。メルケル前政権はこの好況の上にあぐらをかいていたのだが、賃金の上昇、そして原発撤廃やロシアからの天然ガス輸入の一時的停止による電力価格の上昇、さらにユーロ高のトリプルパンチで競争力を失った。今年の成長率は0.01%と予想されている。

プロフィール

河東哲夫

(かわとう・あきお)外交アナリスト。
外交官としてロシア公使、ウズベキスタン大使などを歴任。メールマガジン『文明の万華鏡』を主宰。著書に『米・中・ロシア 虚像に怯えるな』(草思社)など。最新刊は『日本がウクライナになる日』(CCCメディアハウス)  <筆者の過去記事一覧はこちら

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米中、一時的関税停止の可能性 週末の高官協議=スイ

ビジネス

米関税、英経済への影響限定 国内物価圧力注視=英中

ワールド

米ロ、欧州向けガス供給巡り協議 ロシア当局者が確認

ワールド

ゼレンスキー氏、10日に「有志連合」首脳会議を主催
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
メールアドレス

ご登録は会員規約に同意するものと見なします。

人気ランキング
  • 1
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 2
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つの指針」とは?
  • 3
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得る? JAXA宇宙研・藤本正樹所長にとことん聞いてみた
  • 4
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1…
  • 5
    部下に助言した時、返事が「分かりました」なら失敗…
  • 6
    5月の満月が「フラワームーン」と呼ばれる理由とは?
  • 7
    古代の遺跡で「動物と一緒に埋葬」された人骨を発見.…
  • 8
    シャーロット王女とスペイン・レオノール王女は「どち…
  • 9
    野球ボールより大きい...中国の病院を訪れた女性、「…
  • 10
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story