コラム

米経済の立て直しには「根本治療」が必要だ

2024年08月01日(木)16時15分

廃墟となったかつての真鍮工場(コネティカット州) SPENCER PLATT/GETTY IMAGES

<ハリスの登場でトランプの「復讐劇」は終焉を迎えた>

不当に政権から追われたと主張するトランプの復帰合戦は、バイデンという標的が消えたことで勢いを失った。ハリス副大統領が民主党の大統領候補になれば、彼女1人で女性、黒人、インド系という米社会のマイノリティー(全部合わせればマジョリティー)を体現する。トランプは白人、それも一部の旧勢力を代表する存在でしかない。

これまでは「スイングステート」、つまり民主・共和の間でふらふらしてきた中西部などの古い重工業地帯、ミシガン、オハイオ、ペンシルべニア、ウィスコンシン州が大統領選の大きな焦点だった。バイデン、トランプとも、ここでの選挙の帰趨を決めてきた白人労働者、労働組合の支持を得ることに尽力してきた。


トランプは、オハイオ生まれで困窮白人労働者階級からのたたき上げの新人上院議員J.D.バンスを副大統領候補に据えることで起死回生を狙うが、バンスのスピーチを聞いていると、自分はこの4州の住民のために選ばれた、というような箇所がある。これはやりすぎ、他の州は鼻白んでしまうと思ったが、ハリスの台頭でこの危惧は現実になった。トランプは、「もう老人。嘘つきのポピュリスト」というレッテルを貼られ、飽きられる。バンスは、中西部でしか役に立たない候補になるだろう。

「トランプの復讐」ドラマは、バイデンの不調で「確トラ」と言われた時に大団円となった。米国民は、次のドラマを期待している。それは若返りや女性、マイノリティーの権利尊重になるだろう。

経済・社会の構造問題を解決せよ

しかしわれわれ「外野」から見て、アメリカにぜひやってもらいたいことがある。それはアメリカの成長を妨げている、いくつかの制度・構造の手直しだ。経済が成長を続ける限り、不満分子をポピュリズムであおる不健全な政治家は出にくくなり、世界も安心していられるからだ。

例えば、製造業で見られる過度の産業政策。半導体生産に多額の補助金を支給するし、EV(電気自動車)に至っては米系企業の製品だけを税控除の対象とする。これらはWTO等の国際取り決めとの整合性が問題になるし、アメリカの資本家が嫌う社会主義経済のやり方そのものでもある。

アメリカの製造業は、こんな政治的手段ではよみがえらない。アメリカの製造業は、1970年代に日本や西ドイツの輸出に押されて、閉業するか海外に流出していったが、それは自分たち自身が抱えるシステム上の弱点を直せなかったからだ。

プロフィール

河東哲夫

(かわとう・あきお)外交アナリスト。
外交官としてロシア公使、ウズベキスタン大使などを歴任。メールマガジン『文明の万華鏡』を主宰。著書に『米・中・ロシア 虚像に怯えるな』(草思社)など。最新刊は『日本がウクライナになる日』(CCCメディアハウス)  <筆者の過去記事一覧はこちら

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 4
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 5
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 6
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 7
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 8
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    雪の中、服を脱ぎ捨て、丸見えに...ブラジルの歌姫、…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 6
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 7
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 10
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 7
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 8
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story