コラム

「北朝鮮・ロシア反米同盟」の思惑はどこにある?

2023年09月30日(土)15時15分

ロシアの極超音速ミサイルを視察する金正恩総書記(9月16日) RUSSIAN DEFENCE MINISTRYーHANDOUTーREUTERS

<北朝鮮は、ICBM技術とそのために必要な半導体の融通をロシアに望んでいるのではないか?>

北朝鮮の最高指導者、金正恩(キム・ジョンウン)総書記がロシアを訪問した。ジェット機の時代に、低速の鉄道でロシア入りする大仰さ。筆者は1984年にモスクワにいたが、その年の5月に金日成国家主席が北朝鮮から遠路、列車でやって来た時の騒ぎを覚えている。1週間以上もマスコミをにぎわし、対外宣伝上は最高のやり方だった。しかしこのアナクロぶりは、北朝鮮指導部のマインドが現代から隔絶していることを示す。

ロシア人は、「北朝鮮は独裁国だ」と言って下に見る。しかしプーチンは大統領になって早々、2000年7月の沖縄で開催されたG8首脳会議に参加する直前、わざわざ北朝鮮を訪問し、極東に友好国を持っていることを誇示した。ウクライナ戦争で孤立している現在も、核大国一歩手前の北朝鮮との友好関係を、世界に誇示したつもりなのだろう。両国は核兵器で脅して世界を渡るしかない。ロシアは「大北朝鮮」になったと言えば、ロシア人は怒るだろうが。

両国指導者の対米恐怖は、病的と言ってもいい。アメリカの策動で権力を失うことにびくびくしている。それだけ権力基盤がもろいし、権力を失えば、自分の生命、そして指導層の生活さえ保証されないという、切迫した危機感を彼らは持っているのだ。だからロシアは、アメリカを狙って北朝鮮の核・ミサイル開発への協力をひそかに続けてきたと思われる。またウクライナ戦争でロシアを非難する国連総会での決議には、北朝鮮は一貫して反対票(中国は棄権)を投じてきている。

日本の指導者への罵詈雑言は少ない

でもなぜ今、金正恩はロシアにことさら接近したのか。北朝鮮は、国連などから制裁を受けるなか、中国から多くの経済的救済を得てきた。それでもロシアに近づいたのは、日米との関係を急速に強化する韓国の尹錫悦(ユン・ソンニョル)政権に対抗して、ロシアとの準同盟関係を誇示したいもくろみがあるだろう。加えて、「中国が北朝鮮にくれない何か」をロシアが持っているのではないか。ロシアが弱っている今なら話もしやすい──。

北朝鮮は8月、アメリカにも届き得るロケットの打ち上げ実験に失敗している。同種のロケットでの失敗はこれで2回目。北朝鮮はロシアに大陸間弾道ミサイル(ICBM)の技術とそのために必要な半導体の融通──ロシアは西側からの密輸ルートを持つ──を望んでいるのではないか?

プロフィール

河東哲夫

(かわとう・あきお)外交アナリスト。
外交官としてロシア公使、ウズベキスタン大使などを歴任。メールマガジン『文明の万華鏡』を主宰。著書に『米・中・ロシア 虚像に怯えるな』(草思社)など。最新刊は『日本がウクライナになる日』(CCCメディアハウス)  <筆者の過去記事一覧はこちら

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ロシアがICBM発射、ウクライナ発表 初の実戦使用

ワールド

国際刑事裁判所、イスラエル首相らに逮捕状 戦争犯罪

ワールド

イスラエル軍、ガザ北部の民家空爆 犠牲者多数

ビジネス

米国は以前よりインフレに脆弱=リッチモンド連銀総裁
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 2
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 3
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 4
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 5
    「ワークライフバランス不要論」で炎上...若手起業家…
  • 6
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 7
    習近平を側近がカメラから守った瞬間──英スターマー…
  • 8
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 9
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 10
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国」...写真を発見した孫が「衝撃を受けた」理由とは?
  • 4
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 5
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 6
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
  • 7
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 8
    建物に突き刺さり大爆発...「ロシア軍の自爆型ドロー…
  • 9
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 10
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    秋の夜長に...「紫金山・アトラス彗星」が8万年ぶり…
  • 7
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 10
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story