コラム

「そして誰もいなくなる」日本の官僚

2023年05月20日(土)15時00分

中央官庁からの人材流出が懸念されている STANISLAV KOGIKUーSOPA IMAGESーLIGHTROCKET/GETTY IMAGES

<個人的な要求が通らないと予算承認を妨害してくる議員、役人を怒鳴りつけてせいせいしたいだけの人々......社会が変わらなければ官僚の仕事も変わらない>

中央官庁の官僚に早期退職者が増えている。自己都合で退職した20代の総合職は2019年度には86人。13年度は21人だった。昨年9月、河野太郎デジタル相は、中央官庁の人材流出に危機感を示し、「霞が関の崩壊が始まっている」と述べた。政治家、マスコミに罵られながらの連日の超過勤務では、やる気も湧かず、家庭も成り立たないというわけだ。

そこで政府は、まず勤務条件の改善に取りかかった。人事院の研究会は、勤務終了後から開始までに原則11時間の間隔を義務付ける案などを提案した。だが、役人OBとして、そのような措置は実現できない、と思う。夜中の3時に退庁して数時間寝た後、9時には登庁することもある職場で、11時間の休息!? それより、勤務時間が長くなる理由を分析して改善する──こういう姿勢でなければ物事は動かない。

背景には、日本が連絡と調整を重視する社会なので国会議員などに「ご説明」する機会が多いこと、国会では議員が大臣などと大所高所の議論をするのではなく(欧米の議会では大抵そうなっている)、細部を答えさせて揚げ足を取ろうとする場合が多いこと、予算作成時期には財務省主計局の主査クラスから資料の提示を夜中でも至急に求められることなどがある。

それぞれ必要なことだ。財務省も少人数で予算請求を精査しているので、きれい事は言っていられない。しかし非合理なことも数多い。省庁の課長級を説明に呼び付けたことで得意になる議員、首相や大臣が国会での質疑応答で立ち往生しないよう(一晩での)資料作成、翌朝早くの説明は日常茶飯事。自分の抱える案件に予算が付かないと困るので、夜遅くまで待機し、主査から電話があれば飛んで行く。所定の超過勤務手当は出ない。

官僚は永遠の存在ではない

それでも、役に立つこと、面白いことで超過勤務するなら構わない。外務省の場合、交渉事や要人の外国訪問の前は事務が集中するので、課長は椅子の上、課員は事務机の上やソファで仮眠するのはざら。それでも懸案が片付けば達成感があったものだ。

嫌だったのは、個人的な要求が通らないと外務省予算の国会承認を妨害したり、省庁幹部にねじ込んで担当者の更迭を迫る議員。あるいは、一部で不正を働く役人が発覚すると、省全体で不正をしているかのように決め付けられ、罵られることだ。

プロフィール

河東哲夫

(かわとう・あきお)外交アナリスト。
外交官としてロシア公使、ウズベキスタン大使などを歴任。メールマガジン『文明の万華鏡』を主宰。著書に『米・中・ロシア 虚像に怯えるな』(草思社)など。最新刊は『日本がウクライナになる日』(CCCメディアハウス)  <筆者の過去記事一覧はこちら

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 3
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 4
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 5
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 6
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 7
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 8
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 9
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 10
    強烈な炎を吐くウクライナ「新型ドローン兵器」、ロ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story