コラム

「祖国防衛」へと大義がすり替えられたロシアのウクライナ戦争

2023年02月22日(水)15時30分

都市部で散発的に起きた反戦デモは瞬時に弾圧された REUTERS

<特別軍事作戦はNATOから祖国を守る戦いに変質し、戦争でロシアは「次なる世界」から落伍する寸前に>

ロシアが1年前、緒戦でつまずいた時、専門家の多くは戦争の長期化を予想した。そして長期化した場合、ロシア国内が荒れて分裂傾向さえ示す可能性を指摘した。

案の定、戦争は膠着状態を示し、西側の専門家で気の早い連中は「モーゲンソー・プラン」(第2次大戦末期に作られた、ドイツ分割計画)などと称し、「ロシア分解」の皮算用さえ始めている。昨年、制裁を持ちこたえたロシア経済も、年末には財政の赤字化など変調を示し始めた。筆者の脳裏には、1990年代前半の混乱と困窮がよみがえる。

当初ロシアにとってのウクライナ戦争は、「ロシア域外の版図を取り戻す」という、一部エリート、そして超保守主義者のための戦争だったが、西側の支援を得たウクライナが反攻を強めるにつれて、「NATO(特に米独)による介入・侵略から祖国を守る」というものに変質してきた。

開戦当初のロシア国内の反応は、日本で言えば、37年に北京郊外・盧溝橋での銃撃から日中戦争が始まった時、あるいは41年の真珠湾での日米開戦の時に似ているだろう。「戦争だが、遠い所。それに道理は日本にある」と考える人が大多数だった。

確かに筆者の友人は早速、ロシア政府を非難し、先行きを心配するメールを送ってきたし、ロシア全土では反戦デモが起きはした。そして、おそらく外資系企業で働く者たちを中心に国外に出る者が急増した。

3月14日、国営テレビ「第1チャンネル」のニュース番組では、スタッフの女性が「戦争反対。プロパガンダを信じないで」という手書きのプラカードをアンカーウーマンの背後で掲げて見せたが、同様の動きは広がらなかった。反戦デモも人数的には大したことがなく、大都市では埋没してしまう。彼らは、力を集約できるリーダーを欠いたし、ほぼ瞬時に弾圧されてしまった。4月の初めまでに全国で検挙された者は1万5000人余りに上った。

戦時の「泥水」の中の安定

ほかにも戦争に抗議する動きは散発的に起きた。11月末には兵士の母親たちが、ウクライナからの撤退を求める議会宛ての公開書簡を発表しているし、軍の施設などでは不審な出火、爆発が起きている。うち一部は失火、一部は反戦勢力の仕業、また一部は西側やウクライナ諜報機関の工作によるものと報じられている。

プロフィール

河東哲夫

(かわとう・あきお)外交アナリスト。
外交官としてロシア公使、ウズベキスタン大使などを歴任。メールマガジン『文明の万華鏡』を主宰。著書に『米・中・ロシア 虚像に怯えるな』(草思社)など。最新刊は『日本がウクライナになる日』(CCCメディアハウス)  <筆者の過去記事一覧はこちら

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