コラム

ウクライナ戦争の陰の登場人物

2022年05月18日(水)10時42分

渦中の製鉄所を所有するアフメートフのもくろみは? BERND VON JUTRCZENKAーPICTURE ALLIANCE/GETTY IMAGES

<表面的な動きに目が奪われがちだが水面下ではウラ事情がうごめいている可能性が>

ウクライナでは戦争が続くが、この2カ月半、何か物事の表面だけを見て騒いできた感じがする。奥で動く見えない力があるのかないのか、考えてみる。

最近日本のテレビを見ていたらこんな場面があった。

ある人がロシアの知人にウクライナ戦争の実態を伝える記事をSNSで送ると、「そんなの知ったこっちゃない」という書き込みがあったという。

ロシア人の反応を解釈すると、「ウクライナが悪いんだろ。ウクライナは俺たちの領域。俺たちの生活も大変なんだ。がたがた言うな」という意味。

これがロシアの大衆レベルの気持ちだ。ロシア人にもいろいろあって、インテリ層とは対話が可能。しかし大衆レベルになってくると、頭、つまり口先で付き合うことは不可能だ。

上司から虐げられ、疲れ切ったガードマンや空港の兵士などは、すっかり内にこもった動物のような鈍い目を「余計なことを言う」者に向けてくる。彼らは、逆ギレしやすいのだ。外国人はもちろん、国内のインテリも自由とか民主主義とか「余計なこと」を言って彼らをコケにする。

だから彼らは、「雇い主」のプーチン大統領を守る。そしてこの構造を元KGB、つまり公安警察が全国に張り巡らした密告者の網を駆使して批判者を摘発・弾圧することで守る。今号の特集記事でも書いたが、これがロシアの全体主義構造の肝だ。

ウクライナ戦争で西側はプーチン1人を相手にしているが、実はロシアの社会自体が問題なのだ。

ウクライナで分からないのは「オリガーク」。つまりウクライナ経済の大きな部分を所有し、そのカネで政治も牛耳ってきた大事業家たちが今、どう動いているかだ。

ウクライナ経済の中心は、いま戦争の焦点となっている東ウクライナにある。ここを拠点とするオリガークたちは2014年、親ロ派勢力に資産の多くを接収されたことになっているが、それは名義だけのことで実際は利権を維持しているかもしれない。

プロフィール

河東哲夫

(かわとう・あきお)外交アナリスト。
外交官としてロシア公使、ウズベキスタン大使などを歴任。メールマガジン『文明の万華鏡』を主宰。著書に『米・中・ロシア 虚像に怯えるな』(草思社)など。最新刊は『日本がウクライナになる日』(CCCメディアハウス)  <筆者の過去記事一覧はこちら

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

台湾の頼次期総統、20日の就任式で中国との「現状維

ワールド

イスラエル軍、ガザ北部で攻勢強化 米大統領補佐官が

ワールド

アングル:トランプ氏陣営、本選敗北に備え「異議申し

ビジネス

日本製鉄副会長が来週訪米、USスチール買収で働きか
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバいのか!?

  • 3

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイジェリアの少年」...経験した偏見と苦難、そして現在の夢

  • 4

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 5

    時速160キロで走行...制御失ったテスラが宙を舞い、4…

  • 6

    チャールズ英国王、自身の「不気味」な肖像画を見た…

  • 7

    英供与車両から巨大な黒煙...ロシアのドローンが「貴…

  • 8

    日本とはどこが違う? 韓国ドラマのオリジナルサウン…

  • 9

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 10

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 1

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 2

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 3

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 9

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 10

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 4

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story