コラム

コロナ禍で失墜のプーチンに「抵抗力」あり

2020年05月27日(水)11時00分

憂いは尽きないが命運も尽きていない? SPUTNIK PHOTO AGENCYーREUTERS

<世界屈指の感染大国になり支持率は過去最低レベルにまで落ち込んだが......>

ロシアとプーチン大統領について、西側ではその「強くて機敏な集権体制」が嫌悪と畏怖がない交ぜになった顔で語られる。

だが集権制は言ってみれば、指令がなければ誰も動かない集団無責任体制のこと。新型コロナウイルス感染のような想定外の事態には、無力をさらけ出す。3月の初め頃まで、ロシアでのコロナ感染者は非常に少なかった。慢心したロシアはイタリアやセルビアなどにコロナ救護隊(軍要員)、そして医療物資を送り込む余裕を見せたほどだ。

しかし感染者が「少なかった」のは、日本よりもさらに検査数が限られていたからで、検査数増加とともに感染者数は急上昇。5月16日時点で26万人超と、世界で2番目の多さとなっている。感染が集中したモスクワのソビャーニン市長に危機を訴えられたプーチン大統領は3月25日、全国の企業に1週間の「有給の非労働日」を宣言。

だが、結局それを5月11日まで延長し、モスクワなどでは厳しい外出制限が始まった。全ての企業活動が停止したわけではなく、食料品や日用品の供給は普段どおり。しかしロシアの経済と社会はきしみを上げた。4月7日の政府の会議で担当大臣が明らかにしているが、医療関係者の防護服を増産しようにも材料が、人工呼吸器を増産しようにも中核部品が不足している。慌てて生産したためか、5月初旬には呼吸器の発火が相次ぎ、6名の患者が亡くなった。

「有給の非労働日」を1カ月以上も強いられた民営の中小企業がその負担に耐えられるわけもなく、従業員の大量解雇に踏み切ると、失業者は1カ月で約73万人増加した。大企業はほぼ全て国営だから西側のような救済措置は不要だが、それでも彼らは賃金支払い用にキャッシュを温存し、企業間の支払いを滞らせ始めている。

憲法改正の支持者は約半数近くに急増

5月11日、プーチンが「非労働日」を終結させると宣言したが、その翌日にペスコフ大統領報道官とその夫人が新型コロナに感染して入院したことが報道されるなど、ちぐはぐぶりを見せた。極め付きは1月に首相になったばかりのミシュースチンも、コロナ感染により先月30日から執務を停止している。プーチンも、5月12日までは全ての会議をオンラインでやっていた(彼が3月に視察した感染者病棟で握手した病院長がその後、陽性反応を示したためだ)。

この混乱でプーチンへの支持率は4月末、59%という、これまでの最低水準に沈んだ。だが、これで命運が尽きたかと言うと、そうでもない。2024年の任期満了以降も彼の留任を可能にさせる憲法改正への支持率は、3月の40%から4月は47%に上昇。改正の是非を問う国民投票(時期未定)へは65%の有権者が投票に行くと回答し、そのうち58%は賛成票を投じるとしているからだ。

プロフィール

河東哲夫

(かわとう・あきお)外交アナリスト。
外交官としてロシア公使、ウズベキスタン大使などを歴任。メールマガジン『文明の万華鏡』を主宰。著書に『米・中・ロシア 虚像に怯えるな』(草思社)など。最新刊は『日本がウクライナになる日』(CCCメディアハウス)  <筆者の過去記事一覧はこちら

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必死すぎる」「迷走中」
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    深夜の防犯カメラ写真に「幽霊の姿が!」と話題に...…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 8
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 9
    トランプが「マスクに主役を奪われて怒っている」...…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story