コラム

東欧革命から30年──「自由かパンか」で歴史は動く

2019年05月31日(金)16時20分

産業革命以来、歴史の振り子はこの2極の間で振れてきた。いま欧州の振り子は、「自由よりパン」に振れている。ロシアの大衆はプーチンの下で、「自由よりパン」の極に20年間貼り付いたままだ。日本はおかしなことにロシアに少し似て、有権者の多くは安倍政権に経済・社会政策しか期待していないようだ。

アメリカも同様で、国民は自分の暮らしに無関係なベネズエラやイランへの関与を望まない。一方中国は逆で6月4日の天安門事件30周年を前に、当局は社会の振り子が自由・民主主義要求に振れるのではないかと戦々恐々としている。歴史は創造と分配の両極間に閉じ込められて、もう前に進めないのだろうか。

いや、世界の文明は折しも産業革命以来の転換点にある。ロボットや人工知能(AI)の発達で産業の生産性が格段に高まり、大衆への経済の配当を大幅に増やせる、さらには働かなくても一定の所得を保証できることになるからだ。

そこでの問題は所得格差より、精神面での格差となる。上を目指す者と、所得保証で満足してボーッと生きる者の間で生じる摩擦をどうするか、という問題だ。富裕層は遺伝子操作で、全く別種の生き物になってしまうだろう。

「ロボット」という言葉を発明したのは、近代チェコの作家カレル・チャペックだ。東欧はソ連圏を崩壊させただけではない。18世紀以来の近代文明からの脱皮、社会の振り子のための新しい極も準備してくれたのだ。

<本誌2019年06月04日号掲載>

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※6月4日号(5月28日発売)は「百田尚樹現象」特集。「モンスター」はなぜ愛され、なぜ憎まれるのか。『永遠の0』『海賊とよばれた男』『殉愛』『日本国紀』――。ツイッターで炎上を繰り返す「右派の星」であるベストセラー作家の素顔に、ノンフィクションライターの石戸 諭が迫る。百田尚樹・見城 徹(幻冬舎社長)両氏の独占インタビューも。


プロフィール

河東哲夫

(かわとう・あきお)外交アナリスト。
外交官としてロシア公使、ウズベキスタン大使などを歴任。メールマガジン『文明の万華鏡』を主宰。著書に『米・中・ロシア 虚像に怯えるな』(草思社)など。最新刊は『日本がウクライナになる日』(CCCメディアハウス)  <筆者の過去記事一覧はこちら

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