コラム

安倍晋三の名を歴史に残すために必要なのは「遺産」ではない

2019年01月04日(金)07時00分

3つ目の節目である消費税引き上げについては、見え見えのばらまき対策よりも大きな絵を国民に示してほしい。この10年、「人口減による経済縮小」が日本経済の見方の定番になってしまった。今、出入国管理法を改正して外国人労働者受け入れを実質的に拡大したことの是非が議論になっている。だがこれまでも日本企業が外国に工場を建てたり、外国企業を従業員ごと買収したりと、労働力の実質的な大量輸入は行われてきた。外国での経済活動から日本が得ている直接投資収益は年間約8兆円と、貿易黒字を大幅に上回っている。人口は減っても、これまで得た資本を目減りさせない限り、経済規模は維持拡大できるのである。

アジアでも欧米でもなく

明治151年。日本はあたかも明治元年に戻ったかのように、「アジアか欧米か」を選ぶ岐路に再び立ったと思いがちだ。しかし、こういうときは米中の間でふらふらせず、「自分はどういう者で、何を欲しているのか」をしっかり捉えて行動するべきだ。欧米の言う自由とか民主主義、中国の言う家族主義・国家資本主義、いずれも絶対の真理ではないことを見据えよう。

国民総所得の47%を人口のわずか10%が独占するアメリカでは、低所得層の自由と権利は限られたものになる。そのアメリカをあしざまに罵る中国のエリートは、その陰で子弟と資金をアメリカに送っている。どっちもどっちだ。

日本は、大多数の者がちゃんとした暮らしと、面白い人生を送れるという、当たり前のことを旗印にすればいい。そのあたりを哲学として打ち出せば、安倍晋三の名は歴史に残ることだろう。

<2019年1月1/8日号掲載>

※2019年1月1/8日号「ISSUES2019」特集が好評発売中。こちらからもお買い求めいただけます。

20250225issue_cover150.png
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年2月25日号(2月18日発売)は「ウクライナが停戦する日」特集。プーチンとゼレンスキーがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争は本当に終わるのか

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


プロフィール

河東哲夫

(かわとう・あきお)外交アナリスト。
外交官としてロシア公使、ウズベキスタン大使などを歴任。メールマガジン『文明の万華鏡』を主宰。著書に『米・中・ロシア 虚像に怯えるな』(草思社)など。最新刊は『日本がウクライナになる日』(CCCメディアハウス)  <筆者の過去記事一覧はこちら

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米バークシャー、24年は3年連続最高益 日本の商社

ワールド

トランプ氏、中国による戦略分野への投資を制限 CF

ワールド

ウクライナ資源譲渡、合意近い 援助分回収する=トラ

ビジネス

ECB預金金利、夏までに2%へ引き下げも=仏中銀総
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必死すぎる」「迷走中」
  • 4
    深夜の防犯カメラ写真に「幽霊の姿が!」と話題に...…
  • 5
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    細胞を若返らせるカギが発見される...日本の研究チー…
  • 8
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 9
    トランプが「マスクに主役を奪われて怒っている」...…
  • 10
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story