コラム

官僚も官邸も「ウミ」まみれ、誰が日本を仕切るのか?

2018年05月12日(土)14時30分

問題続出の財務省には解体案まで出ている(写真は森友文書改竄問題で報道各社に対応する麻生財務相、3月12日) Toru Hanai-REUTERS

<財務省を襲ったセクハラ疑惑とこれを利用する政治家の泥仕合――朝鮮半島情勢が動く今、リーダーなき日本は主なき浮遊を始めた>

一昔前の日本では、政治家の発言は官僚に厳重に管理されていた。何事も予算の範囲や各省合意の枠内で、官僚が「ご発言用」メモを作る。政治家がそれに外れたことを言えば、官僚はその「真意」はこうだと強弁して元に戻してしまう。

これも政治家の独裁を許さない、民主主義の一つの仕掛けだ――筆者も外務官僚時代、そう思っていた。だが強権政治で知られたある国の官僚にこう指摘されて、ぎゃふんとなったことがある。「それは民主主義ではなく、ただの官僚主義だ」

これだけ官僚が強い(あるいは強かった)のは、日本特有の現象だ。もともと官僚制というのは、強いリーダーの手足として成立した。例えば、中国・宋王朝の科挙官僚。17世紀にイギリスが集権国家化するにつれて急増した官僚。そして近代以降、明治政府の手足として成長した日本の高級官僚。いずれも強いリーダーの存在を前提とする。

ところが日本は第二次大戦の敗戦後、日米同盟の枠内で経済に専念し、強いリーダーや改革は不要となった。そこから現状固定の司祭ともいうべき官僚が主人面をするようになった。

しかし90年代、バブル崩壊直後から大蔵省(現・財務省)や外務省、通商産業省(現・経済産業省)を中心に、今の安倍政権をもしのぐ不祥事が続出。世間は不景気の憂さ晴らしとばかりに官僚をたたいた。80年代末に経済停滞の責を負わされ、ついには解党の憂き目まで見たソ連共産党に似た運命だ。

00年代の小泉政権以降は「政高官低」の声が高まり、民主党政権を経て安倍政権で官僚への人事権強化という形で結実した。

安倍が切るべき「ウミ」

特に各省への予算配分権をてこに、戦前の内務省に代わって筆頭格の官庁となった財務省への風当たりは強い。政治家の言うとおりにカネを出さないので、憎まれる。世間からは、景気振興のカネを出し惜しむ貧乏神として恨まれる。こうして財務省はアベノミクスで財政赤字拡大という煮え湯を飲まされた上、今度は事務次官のセクハラ疑惑で官房長が頭を深く下げるという、屈辱の総仕上げとなった。

森友・加計学園問題への目くらましを兼ねてか、自民党ではこれを機に省庁再編案が浮上。政高官低の総仕上げをするとともに、議員が予算を自由に使える体制を実現しようとしているようだ。例えば財務省を解体し、予算編成権を内閣官房に移すという案が報じられている。これでは予算の野放図な拡大への歯止めがなくなってしまう。

アメリカのように、政権が代わるたびに局長級以上の官僚を総入れ替え、という制度を取り入れる案も以前からある。だが日本では入れ替えになった官僚を引き取るシンクタンクが少な過ぎ、官僚は失職し路頭に迷うことになる。猛烈な受験勉強の末に国家試験を通っても、いつ失職するか分からないのでは官僚志願者はいなくなる。

プロフィール

河東哲夫

(かわとう・あきお)外交アナリスト。
外交官としてロシア公使、ウズベキスタン大使などを歴任。メールマガジン『文明の万華鏡』を主宰。著書に『米・中・ロシア 虚像に怯えるな』(草思社)など。最新刊は『日本がウクライナになる日』(CCCメディアハウス)  <筆者の過去記事一覧はこちら

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ルペン氏に有罪判決、被選挙権停止で次期大統領選出馬

ビジネス

中国人民銀、アウトライトリバースレポで3月に800

ビジネス

独2月小売売上は予想超えも輸入価格が大幅上昇、消費

ビジネス

日産とルノー、株式の持ち合い義務10%に引き下げ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
2025年4月 1日号(3/25発売)

トランプの「逆風」をはね返す企業の努力が地球を救う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者が警鐘【最新研究】
  • 3
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 4
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 5
    「炊き出し」現場ルポ 集まったのはホームレス、生…
  • 6
    メーガン妃のパスタ料理が賛否両論...「イタリアのお…
  • 7
    3500年前の粘土板の「くさび形文字」を解読...「意外…
  • 8
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 9
    突然の痛風、原因は「贅沢」とは無縁の生活だった...…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 1
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 2
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放…
  • 10
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」…
  • 10
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story