コラム

米中貿易戦争は出来レース? トランプと習は手打ちする

2018年04月21日(土)12時00分

中国の対外開放姿勢をアピールする習近平(海南省ボアオ) Qilai Shen-Bloomberg/GETTY IMAGES

<有権者のご機嫌を取りたいアメリカと成長失速を懸念する中国――北朝鮮や台湾、シリア問題に紛れて棚上げの運命か>

米中貿易戦争もたけなわ。両国とも大幅の関税引き上げで脅し合い、一歩も引かないと見えを切る。

かつて日米貿易摩擦で守勢一方だった日本を思い出すと、中国が羨ましい。日本は中国のように、鉄鋼輸出を守るために金融面での規制を緩和するというような、担当省庁をまたぐ調整力が弱いから、どうしても受け身一方になる。それに、日本はアメリカに安全保障を依存している。

しかし今の米中紛争はどこか芝居じみていて、双方が空に向けて銃を撃ち合っている気配だ。適当なところで両者は手を握ってしまうかもしれない。世界の株式市場もそれを察してか、下げてもすぐ上がっている。

アメリカはどれだけ本気だろうか。トランプ米大統領は明らかに秋の中間選挙や2年後の大統領選をにらんで、話題や手柄を作るのが目的。大統領選で決定的な役割を果たした「中西部の労働者」に再び仕事を作ってやったと言えることが重要だ。

だが中国製鉄鋼やアルミニウムなどの関税を高くしたところで、中西部で工場再開はないだろう。中国の対米鉄鋼輸出は昨年70万トン台と少なく、対米鉄鋼輸出国としては10位と低い。中国からの対米輸出の上位はスマホなど、中国で組み立てられたアメリカなど外国企業の製品だ。

西進の究極目標は中国

この輸入を制限すればアップルやゼネラル・モーターズなど米企業が困るし、米国民が買う商品は値上がりしてしまう。企業は製品の組み立てを中国からアメリカに戻すことはせず、ベトナムやインドなど、別の低賃金地域に移すだけだ。

だからトランプは、中国つぶしを本気では狙うまい。中国がアメリカからの輸入(特に航空機、自動車、医療機器、薬品)を大幅に増やし、中国国内で米企業に不当な罰金を科さないなど投資環境を改善するといったあたりで手を打つだろう。

中国も一歩も引かないと言いながら、実は対応に悩んでいる。脅し文句のとおりに大豆や航空機の輸入に高関税をかけると、これだけ大量の供給をしてくれる国はほかにないので、自分で自分の首を絞めることになる。

米国債を大量に売却しても、損を被るのは中国のほうだ。売り出された米国債は日本などが買いあさるから、アメリカは困らない。他方、中国は米国債を売却して得た大量のドルの持って行き場に悩んでしまう。

中国は経済大国と言われて自分でもその気になっている。だが実際には、第二次大戦後にアメリカが築いた国際経済の枠組みの中で都合よく動いているだけだ。人民元は交換性を欠いており、中国も貿易の多くをドル建てでやっている。ドル支配を崩すため、上海に原油の元建て先物市場を設立したが、元に交換性がないままでは外国人は寄り付かないだろう。

プロフィール

河東哲夫

(かわとう・あきお)外交アナリスト。
外交官としてロシア公使、ウズベキスタン大使などを歴任。メールマガジン『文明の万華鏡』を主宰。著書に『米・中・ロシア 虚像に怯えるな』(草思社)など。最新刊は『日本がウクライナになる日』(CCCメディアハウス)  <筆者の過去記事一覧はこちら

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

フィンランドも対人地雷禁止条約離脱へ、ロシアの脅威

ワールド

米USTR、インドの貿易障壁に懸念 輸入要件「煩雑

ワールド

米議会上院の調査小委員会、メタの中国市場参入問題を

ワールド

米関税措置、WTO協定との整合性に懸念=外務省幹部
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 8
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 9
    【クイズ】2025年に最も多くのお金を失った「億万長…
  • 10
    トランプが再定義するアメリカの役割...米中ロ「三極…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 3
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥーが解明される...「現代技術では不可能」
  • 4
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 7
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story