熱狂なきロシア大統領選とプーチン時代の終焉
トランプ米大統領をプーチンは操っている?(写真は大統領選期間中のプーチン支持集会) Maxim Shemetov-REUTERS
<経済の空洞化と核ミサイルの脅しは北朝鮮そっくり――トランプも安倍もかつての大国ロシアを過大評価していないか>
3月18日のロシア大統領選など結果を見るまでもない。この3カ月、プーチン大統領再選に向かう筋書きばかり見え見えで、ドラマなき選挙戦だった。
実は14年のクリミア併合直後のプーチンへの熱狂的支持はすっかり冷めている。大都市圏での支持率は選挙前の1月から2月にかけ、69.7%から57.1%へと顕著な下落を見せた。
欧米の経済制裁と原油価格の急落が相まって、第3期プーチン政権が発足した12年以来、インフレによって国民の実質所得は大幅に減少した。医療や教育などのばらまき予算も実質では純減。生活に苦しむ若者の不満を吸い上げる反体制運動家らは当局につぶされる。
むしろ増えたのは軍事費ばかりだ。3月1日、プーチンは年次教書演説を行ったが、国民の生活向上への空疎な約束や「AI経済に乗り遅れるな」という呼び掛けに、満場の議員は無表情。だが後半、新型ミサイルが飛ぶ子供だましの動画を背にプーチンが、「ロシアの攻撃を逃れることは不可能。アメリカよ、今こそロシアの声を聞け」と述べると大喝采。経済の空洞化と核ミサイルでの脅し――これではまるで北朝鮮だ。
筆者の耳にはロシアの識者たちから危惧の声が入ってくる。
「外交的転進」は徐々に
プーチンも任期末の24年には71歳と、ロシア男性の平均寿命66.5歳を超える高齢だ。権力層はプーチン後をにらみ、有望候補を囲み陣取りゲームを始めるだろう。連続3選を禁じた憲法により任期が終わるプーチンはそれを抑えることができまい。
それに付け込んで、さまざまな勢力がテロを仕掛けるだろう。国が乱れるのを防ぐため、プーチンはエリツィン元大統領のように、任期半ばで次の者に権力を禅譲するかもしれない。その場合でも院政は維持しようとするだろうが――。
今のところ、後釜に座れるような有能でカリスマのある政治家や官僚は見当たらない。ただしプーチンもエリツィンの後を継いだ当初は、そのカリスマのなさを散々揶揄されたものだ。位が人をつくるのだ。
米大統領選への介入が発覚後、アメリカではロシアの脅威を過大評価するのが政界や言論界の定番になった。民主党は「トランプは敵国ロシアの操り人形」という攻撃に使えるし、米国防総省はオバマ前政権で削減された国防費をまた増やせるからだ。
しかしロシアの軍事力はせいぜいその周縁地域に少々の影響を及ぼせる程度だ。経済やビジネスの実力も、中国と比べても2周回ぐらい遅れている。
91年末のソ連崩壊が生んだ遠心力はまだ続いており、今のロシアに旧共産圏のような「影響圏」を取り返す力はない。米軍が居残るシリアでロシアは出血を強いられているし、1年後に大統領選を控えるウクライナは親ロ派から東部奪回を狙っている。欧米が思うほど、プーチンは順風満帆ではない。
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