コラム

北朝鮮のミサイルが在日米軍基地を襲う日

2017年10月07日(土)12時00分

中距離弾道ミサイル火星12を視察する金正恩 KCNA-REUTERS

<金正恩のグアム奇襲に対して米軍が同盟国から報復――そのとき北の振り上げたこぶしは日本に向かうのか>

トランプ米大統領と北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)国務委員長。今時の国際政治の2大スターは、罵り合いに果てしがない。外国との経済関係の大部分を止められた北朝鮮はABCD包囲網で経済的に締め上げられた戦前の日本と同じく、ハワイ・真珠湾攻撃のような奇襲に起死回生を懸けるだろうか。

当時の真珠湾の艦隊に相当する米軍の大戦力は、今はグアム島の爆撃機群に相当する。北朝鮮がここを奇襲すれば米軍は直ちに報復し、在日米軍基地からも軍艦や戦闘機が進発する。そのとき日本は北朝鮮からの攻撃対象になるだろう。

朝鮮戦争のとき日本は、朝鮮半島で戦う米軍に文字どおりの基地として使われた。その後60年の日米安保条約改定で、有事の基地使用の際に日米は相互協議をすることとなった。つまり、米軍が北朝鮮での作戦に在日基地を使うことに、日本はノーも言えるのだ。

そんなことをすれば、米国内で日本非難が巻き起こるだろうが、アメリカ自ら日米安保を破棄はするまい。03年のイラク戦争で、トルコは米軍が国内基地を足場として使うのを許さなかった。アメリカでは大変な不満が渦巻いたが、NATOの一員、米同盟国としてのトルコの地位は揺るがなかった。中東と欧州の間に位置する大国トルコは、アメリカが簡単に捨てられない戦略的価値を持っているからだ。

アジアでは日本もアメリカにとって、トルコに勝るとも劣らない価値を持っている。もっとも日本はトルコより対米依存がはるかに強い。日本があまり調子に乗ってアメリカに盾突くと、経済などの方面で何か報復措置を食らうことになる。

ネオコン政策からの決別

しかし北朝鮮は、真珠湾のような奇襲はするまい。真珠湾の米艦隊をたたけば米軍をしばし麻痺させられた戦前とは違う。今では北朝鮮がグアムの米軍爆撃機を撃滅しても、代わりはすぐ飛んでくるし、空母艦隊や米海兵隊の打撃力も北朝鮮を圧倒する。実際、9月23日深夜から24日未明に米爆撃機編隊が北朝鮮東方の領空近くを威嚇飛行したとき、北朝鮮は何もできなかった。金は振り上げたこぶしのやり場に困っているに違いない。

そこで事態を収拾するとっかかりがある。世界は今回のトランプの国連総会演説にあきれているが、実はこの中にヒントがある。それは「アメリカは自分の生き方を他国に押し付けない。むしろ皆にモデルとして仰ぎ見られるような存在になることを目指す」という部分。これは独裁国を「体制転換」で倒すという、ネオコン的政策からの決別を意味するのだ。

プロフィール

河東哲夫

(かわとう・あきお)外交アナリスト。
外交官としてロシア公使、ウズベキスタン大使などを歴任。メールマガジン『文明の万華鏡』を主宰。著書に『米・中・ロシア 虚像に怯えるな』(草思社)など。最新刊は『日本がウクライナになる日』(CCCメディアハウス)  <筆者の過去記事一覧はこちら

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アングル:もう賄賂は払わない、アサド政権崩壊で夢と

ワールド

アングル:政治的権利に目覚めるアフリカの若者、デジ

ワールド

尹大統領の逮捕状発付、韓国地裁 本格捜査へ

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 4
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 5
    女性クリエイター「1日に100人と寝る」チャレンジが…
  • 6
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 7
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 8
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
  • 9
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 10
    本当に残念...『イカゲーム』シーズン2に「出てこな…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 5
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story