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エジプトのモスク襲撃テロの背景にある「スンニ派同士」の対立
強硬的手法による「テロとの戦い」の限界
今回のモスク襲撃がISによるものかどうかとは別として、テロの背景に同じスンニ派の信者でありながら、イスラムをめぐる深い亀裂があることが見えてくる。
シナイ半島は砂漠と山岳部で覆われ、サウジアラビアや西のリビアともつながる部族的な慣習が強い土地柄で、ISだけでなく、いくつもの過激派組織がある。これまでもシナイ半島のエジプト軍や治安部隊、外国人観光客が宿泊するホテルを標的としたテロが続き、2015年10月にはロシアの民間機が墜落し、ISシナイ州が犯行声明を出した事件があった。
現在の軍主導のシーシ政権は2011年の「アラブの春」後の選挙で選ばれたイスラム穏健派組織「ムスリム同胞団」系の大統領を2013年にクーデターで排除し成立した。シーシ大統領は権力掌握後、シナイ半島ではISなど過激派との「テロとの戦い」を激化させたが、過激派の活動は収まらず、最悪のテロが起きた。
今回、テロの標的が軍からスーフィー主義者へと広がったことで、従来の強硬的手法による「テロとの戦い」の限界が露呈した。エジプト軍はテロの後、シナイ半島の山岳地域の「テロリスト拠点」を空爆して、車両を破壊したと発表した。しかし、空爆の標的をどのようにして確定したかも明らかでなく、新たな暴力の連鎖を生むことになりかねない。
サラフィー主義は90年代以降、インターネットや衛星放送の普及するなかで若者を中心に広がった。旧ムバラク政権時代(1981~2011年)は非政治的だったが、「アラブ春」の後、政治に参加し、選挙でムスリム同胞団に次ぐ勢力となった。「イスラム的な公正」の厳格な実施を求める考え方が若者たちに受け入れられていると見られる。
現在、サラフィーとスーフィーという全く相反する2つの宗教運動が、エジプトの民衆の間に広がっていることになる。共に民衆レベルでは平和主義だが、スーフィー主義者は軍や警察とのつながりが深く、シーシ政権の強権体制を支えている。一方のサラフィー主義の中から、「ジハード」に傾斜して、政権と対立する流れが出てくる。ムスリム同胞団は両方の要素を持ち、双方の間にあったが、現在は政治から排除されている。
この事件がすぐにシナイ半島を超えて、エジプト本土で「サラフィー対スーフィー」の抗争に発展するとは思わない。しかし、今回のイスラム過激派によるスーフィー系モスクへのテロは、エジプトでイスラム教徒同士が敵対する前例をつくり、今後、状況が悪化すればイラクのように際限のない暴力の連鎖が起こる可能性を示したことになる。
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