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まだ終わっていない──ラッカ陥落で始まる「沈黙の内戦」
ISの占領が終わったラッカに「新たな占領者」
アレッポ東部の包囲攻撃は、政権軍による侵攻と制圧によって終わりを告げた。しかし、シリア内戦は終わらず、かつてバナが陥った苦境は、東グータなどまだシリアの反体制地域の至るところにある。
その中でも、5年に及ぶ東グータ地区の包囲攻撃と、住民の苦境をいかに軽減し、終わらせるかは、国際社会にとって最大の課題となる。それによってロシアが主導する「安全地帯」を設置する和平プランの有効性も試されることになる。
しかし、シリア内戦に対する世界の関心が低下していることから、市民の悲惨な状況がメディアに載らなくなれば、アサド政権やロシア政府に対する和平圧力も弱くなり、市民の苦境と悲劇は国際社会の沈黙の下で続くことになる。
なお、米国の援護を受けたクルド人主体のシリア民主軍(SDF)によるラッカ制圧については、ラッカの市民ジャーナリスト組織サイト「沈黙のラッカ虐殺」の報道の流れによって、何が起こっているかは見えてくる。
このサイトは2014年4月にシリア人の市民ジャーナリスト17人によって秘密裏に創設され、IS支配地域でのISによる人権侵害を報じてきた。2016年11月に米軍・有志連合によるラッカ市街地への侵攻作戦が始まってからは、米軍・有志連合の無差別空爆を批判的に取り上げる報道が増えた。
SDFによるラッカ市街地への侵攻作戦が始まった今年6月には、米軍・有志連合の無差別空爆をこう非難した。
「ラッカ市は市を支配しようとして焦土作戦を行う有志連合とその同盟者(=シリア民主軍)による組織的な破壊を受けている。民間人に対するあらゆる人権侵害に対しても、ごくわずか、もしくは全く非難を受けることはない。そのような行動がISと戦うという口実の下に行われている」
シリア人権ネットワーク(SNHR)はシリア内戦での市民の死者を集計しているが、今年の5月と8月は、米軍・有志連合の空爆による民間人の死者がアサド政権軍による死者よりも多く、軍事勢力の中で最多となった。SNHRのリポートは「有志連合は政権軍やイスラム過激派よりも多くの民間人を殺害」という見出しをつけた。
「沈黙のラッカ虐殺」サイトは、ラッカ陥落の後、10月25日付で「シリア民主軍(SDF)によるISへの報復と民間住居の略奪」と題して、「SDFがラッカに侵攻して以来、運び出して売ることができるすべての物に対する組織的な略奪が続いている」という現地の混乱ぶりを伝えている。
さらにサイトのフェイスブック・ぺージの中央にアラビア語で「ラッカの新たな占領」と書き、右にISの写真、左にクルド人組織の写真を組んで、ISの占領が終わり、クルド人の占領が始まったことを表現した。
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