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北斎のような「波」が、政治的暴力を世界に告発する
造形芸術家アブドルラフマン・カタナーニの作品で、有刺鉄線でつくった波(本人提供)
<レバノンのパレスチナ難民キャンプに暮らす若き芸術家が、国内外で注目されている。キャンプで安価な建築資材として使われるスレート板や、難民や部外者を締め出すのに使われる有刺鉄線でつくられた作品は、なぜ共感を呼ぶのか>
今年8月にレバノン・ベイルート南郊のパレスチナ難民キャンプで取材をしている時に、隣接するサブラ地区に住む若いパレスチナ難民の造形芸術家アブドルラフマン・カタナーニ(34)と会った。パレスチナ問題や難民問題をモチーフとして、メッセージ性の強い創作活動を続け、ベイルートだけでなく湾岸諸国の展示会に出品し、この3年ほどはフランスやドイツの展示会でも注目されている。
パレスチナ人の案内人は、「カタナーニはガザ病院に住んでいる」と言った。シャティーラ難民キャンプを出ると、真っ赤なトマトやソフトボール大のナスが山と積まれた売り台が並ぶサブラの野菜市場がある。市場を通り抜けると道路に面して住宅が立ち並び、あまり目立たないビルの入り口がある。
そのビルの電気もない暗い通路を通り、奥の階段を上がっていく。2階、3階とのぼると、それぞれ長い通路の左右にドアがあり、通路では洗濯物を干していたり、女性が座ってジャガイモの皮をむいていたりと、生活感にあふれている。
訪ねたのは昼前の時間だった。ドアをノックして5分ほど待って、出てきた若者がカタナーニだった。寝起きの顔で「昨夜は夜遅かったので」と待たせたことを言い訳した。伸びた縮れ髪が直立し、180センチ以上ある細身の長身をさらに引き立たせていた。中に入ると、30平方メートルほどの比較的大きな部屋。「このビルは昔、病院で、ここは病室だった」と、カタナーニは私の質問を先取りするように説明した。
1982年9月にあった「サブラ・シャティーラの虐殺」(関連記事:1982年「サブラ・シャティーラの虐殺」、今も国際社会の無策を問い続ける)の際、イスラエル軍に包囲された中で異変を感じたパレスチナ人が難民キャンプから出て、避難した場所が「ガザ病院」だった。当時、パレスチナ解放機構(PLO)系のパレスチナ赤新月社の総合病院。その後、85年にシャティーラ難民キャンプがシーア派民兵組織による包囲攻撃を受けた時に、焼き討ちされて炎上した。病院機能は失われたが、廃墟となった病院にパレスチナ難民が住みつき、いまは住宅ビルとなっている。
カタナーニの家族はシャティーラ難民キャンプに住み、彼自身は83年にガザ病院で生まれた。その後、キャンプが破壊され、ガザ病院が焼き討ちされた後、カタナーニの家族は病院跡ビルに住み始めたという。カタナーニはここからシャティーラ難民キャンプ内にある国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)の学校に通い、さらにベイルート市内の大学に通った。4年前に病院跡ビルの部屋をアトリエとして購入し、芸術活動の場所としている。
6年間で風刺画を1000枚描いたが、「やめろ」と脅された
カタナーニはコンピューターを開いて、2008年から4年間取り組んだ「子供シリーズ」の写真を見せてくれた。モチーフは遊ぶ子供たちだ。縄跳びをする少女、風船を持つ少女、凧揚げをする少年、棒の先にリボンをつけて回す少女など。遠目には、楽しく遊ぶ子供たちであるが、よく見ると、子供たちの身体や凧、風船はスレート板で作られ、縄跳びの縄や凧をつなぐひも、リボンなどは有刺鉄線で作られている。
スレート板は難民キャンプでは最も安価な建築資材として多用される材料であり、有刺鉄線は難民や避難民や部外者が立ち入らないように設置されるものだ。「難民キャンプでの人々の生活を描きながらも、パレスチナ人がパレスチナ人として生きることが阻まれているというメッセージを込めている」とカタナーニは語る。このシリーズはベイルートのギャラリーで販売され、すべて売り切れたという。
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