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日本と中東の男女格差はどちらが深刻か
首都リヤドにある国立キングファイサル病院で初の女性部長となったセルワ・ハッザ眼科部長(当時45歳)は、1960年代に女子教育が始まったサウジでは「女子教育第一世代」だった。米国に留学して眼科医として働きはじめ、80年代半ばに彼女の研究結果が学会の開会式で表彰されることになった。受賞者の名前が呼ばれ、次々と壇上に上がって王族から賞状を授与された。しかし、ハッザさんの名前は呼ばれなかったという。
ハッザさんは会の小休止の間に王族の方に歩いていき、「閣下、私は賞をいただきにまいりました。もし、テレビの前で女性に賞を与えるのをお気になさるならば、テレビを止めても結構です」と言ったという。王族は「分かった」と答え、会の再開後、ハッザさんの名前が呼ばれた。
いまではサウジの学会でも女性が賞を受けることは珍しいことではなくなったという。ハッザさんは「欧米はいつもサウジの女性がどんなに遅れているかばかり問題にする。しかし、文化が変わるには時間がかかる。私たちは私たちのペースで、確実に進んでいる」と語った。日本では150年近く前の明治5年(1872年)の学制発布で女子教育が始まったことを考えると、日本はとてもサウジの状況をわらう立場にはないことになる。
2007年にヨルダンで行われた統一地方選挙を取材した時、90余りの市で市長選挙があり、その中で唯一女性市長に当選した南部ハサ市のラナ・ハジャヤさん(当時30歳)に話を聞いた。ハサ市はヨルダンでも男性優位の部族的な伝統が強い南部地域にあり、女性市長の誕生は異例のことだった。
ハジャヤさんはハサ市で地域開発を行う技師として勤務したことから、28歳で地方自治省から突然、市長に任命された。市長はまだ政府の任命だった。就任当初、市長室に年配の男性が来て、ハジャヤさんがいるのを見て、出て行った。もう一度のぞいて「市長はどこだ」と聞いた。ハジャヤさんが「私です」と答えると、男性は急にかしこまって「水道の水が出ません」と訴えた。「今日、担当者を行かせます」というと、男性は「今日と言ってくれた市長さんは初めてです」と感激した。それまでの市長は自分の部族から職員を雇い、事業でも優先した。それが当たり前になっていたが、ハジャヤさんは部族ではなく、市民の利益になるかどうかで優先順位を決めた。
問題があれば市役所に部族長や宗教指導者などを招いて、意見を聞いた。会合では男性同士怒鳴りあっても、市長のハジャヤさんに話す時には一転丁寧で穏やかな口調になった。「イスラムでは男性は女性を保護し、尊重しなくてはなりません。女性を侮辱したり、感情的になったりすることは、男性としては許されないことです。みなさんとても協力的でした」と語った。
官選市長として3年務めた実績が市民に支持され、初の公選制で市長に選ばれた。ハジャヤさんは「女性はなかなか機会が与えられませんが、公職につけば地域をまとめる力を発揮することができます」と語った。
ヨルダン南部で国際協力機構(JICA)が女性たちに山羊の放牧や養蜂などを始めるための小型融資をし、女性の収入創出とエンパワメント事業を10年以上実施したことがある。その取材をした時に、日本人のプロジェクト担当者が、ヨルダンでは女性が事業を始めて収入が生じると夫もその事業を手伝うようになり、家族事業のようになる、と語った。
私も事業に参加している夫婦を数組訪ねて話を聞いたが、事業を始める前は夫だけの収入で、妻がお金の使い方や家族の在り方について意見を述べることはなかったが、自分に収入ができると、初めて何に使うかを夫と対等に相談するようになったという。
女性市長のハジャヤさんの話や、JICAのプロジェクトに参加した女性たちの話を聞くと、イスラム世界での男女格差は、女性差別の発想からくるのではなく、男性中心の伝統に由来するもので、女性が教育を受け、社会に出て働いたり、社会的な地位についたりすることによって、男性と女性の関係は変わりうるということではないか、と思える。
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