コラム

与党も野党も独裁者も人権派も......韓国の政治家は断食(と丸刈り)がお好き

2023年10月24日(火)14時00分

韓国国民はもはや断食闘争に飽きている

断食は、民主化を求める勢力のみによって行われるのではない。例えば金泳三の闘争の対象であった全斗煥(チョン・ドゥファン)は、逆に金泳三政権下に自らが収監されると、やはり断食闘争を行い病院に搬送されている。

断食闘争は近年さらに頻繁になっている。例えば、前大統領の文在寅(ムン・ジェイン)は野党議員時代の14年、セウォル号事件の責任追及を求めて断食を行い、逆に文政権期の19年には、保守野党代表の黄教安(ファン・ギョアン)が日本との秘密情報保護協定(GSOMIA)維持などを求めて断食している。その前年には、少数野党の正しい未来党党首だった孫鶴圭(ソン・ハッキュ)もまた、比例代表制実現を求めて断食を行った。

国会議員が政府に対して集団で抗議の断食を行った例もあれば、党内の候補者争いをめぐって断食が行われる例もある。福島第一原発の処理水排出問題でも、少数野党の正義党党首である李貞美(イ・ジョンミ)が21日間の抗議の断食を行っている。

韓国では、政治家の断食が一種の政治文化になり、それ故個々の行為が大きなメッセージ性を持たなくなっている。分かりやすく言えば、韓国国民は政治家による──それが命懸けのものであろうとなかろうと──断食闘争に飽きてしまっている。

金泳三が断食闘争をしたのは40年も前のこと。もう1つのお決まりである「丸刈り」と合わせ、そろそろ民主化闘争の時代につくられた古いパフォーマンスの形を変える時に来ているのではないだろうか。

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プロフィール

木村幹

1966年大阪府生まれ。神戸大学大学院国際協力研究科教授。また、NPO法人汎太平洋フォーラム理事長。専門は比較政治学、朝鮮半島地域研究。最新刊に『韓国愛憎-激変する隣国と私の30年』。他に『歴史認識はどう語られてきたか』、『平成時代の日韓関係』(共著)、『日韓歴史認識問題とは何か』(読売・吉野作造賞)、『韓国における「権威主義的」体制の成立』(サントリー学芸賞)、『朝鮮/韓国ナショナリズムと「小国」意識』(アジア・太平洋賞)、『高宗・閔妃』など。


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