「韓国人自身の失敗」──朴正煕と尹錫悦の歴史認識は韓国社会に受け入れられるのか?
尹(写真)の歴史認識は朴と近い SARAH SILBIGER-REUTERS
<韓国人の歴史認識に厳しい、尹錫悦大統領。しかし、強大な権力を振るった朴正煕にもできなかった国民への説得を支持率が低い大統領にできる余地があるのか>
「実際、100年前の出来事をもって、今の欧州では、戦争をいくどか経験し、その残酷な戦争にもかかわらず、未来に向け、戦争当事国が協力をしているというのに、100年前の出来事をもって、無条件に駄目だ、膝を折って謝れ、というそんな意見は受け入れることはできません」(発言の原文から直訳)
韓国の尹錫悦(ユン・ソギョル)大統領の一言が大きな論争を巻き起こしている。掲載したのは米ワシントン・ポスト紙。訪米直前に、現地の有力紙に独占インタビューを取らせる、という形は、訪日前に読売新聞に独占インタビューを取らせたのと、同じセットアップだ。
今回の尹錫悦の訪米は、3月の東京から、5月に広島で開かれるG7拡大会合へと続く外交日程のハイライトであり、韓国の外交当局は周到な準備を続けてきた。
にもかかわらず、ワシントン・ポストが掲載した大統領の発言は、韓国国内で日本の過去を免罪するものとして、大きな批判を浴びた。
大統領官邸は記事には翻訳の誤りがある、と弁明したが、書いたのは東京に駐在する韓国生まれの記者。自ら韓国語でも発信する人物であり、語学力に問題があるとは思えない。加えてこの記者は、大統領から聞き取った発言をそのまま韓国語でSNS上に掲載している。本コラム冒頭の文章は、それを直訳したものだ。
記者によれば、インタビューで大統領は対日関係について多くの時間を割き、この発言もそのさなかになされたものだという。だから、そこに大統領自身の日本との歴史認識問題に関わる考えが表れていると言って恐らく間違いはないだろう。
「韓国人自身の失敗」と認識
そもそも振り返れば、尹錫悦はこの数カ月間、従来の韓国の歴史認識に大きく反する発言を繰り返してきた。
典型的だったのは3月1日、韓国で「三一節」と呼ばれる、かつての民族運動を記念した日の演説だった。
尹錫悦は「私たちは世界史の変化に適切に準備できず、国権を喪失し、苦しんだ私たちの過去を振り返る必要があります」と述べ、朝鮮半島の植民地化をもたらしたのは、韓国人自身の国際社会への対応の失敗であると結論付けた。
直後の3月6日に出された元徴用工問題の解決案もまた、韓国国内では不評であり、世論調査では約60%の人が反対した。
とはいえ、韓国においても同様の歴史認識を持っていた大統領がいないわけではない。最も近いのは朴正煕(パク・チョンヒ)である。
韓国・尹錫悦大統領に迫る静かなる危機と、それを裏付ける「レームダック指数」とは 2024.11.13
「ハト派の石破新首相」という韓国の大いなる幻想 2024.10.16
全斗煥クーデターを描いた『ソウルの春』ヒットと、独裁が「歴史」になった韓国の変化 2024.09.10
「ディオール疑惑」尹大統領夫人の聴取と、韓国検察の暗闘 2024.08.06
韓国が「佐渡の金山」の世界遺産登録に騒がない訳 2024.07.03
「出生率0.72」韓国の人口政策に(まだ)勝算あり 2024.06.05
総選挙大勝、それでも韓国進歩派に走る深い断層線 2024.05.08