コラム

日本国民の「韓国への感情」の深刻さを、韓国はまったく理解できていない

2022年10月04日(火)17時47分
岸田首相と尹大統領

スペイン・マドリードでのNATO首脳会議で対面した岸田首相と尹大統領(6月29日) Jonathan Ernst-Reuters

<尹政権が日韓関係の改善に向けた努力を無駄にしかねない言動を繰り返してしまうのは、日本で歴史認識問題がどれだけ深刻に受け取られているかを理解していないから>

「決まっていないことを言うなよな。逆に会わないぞ」

9月21日、ニューヨークにて岸田首相と尹錫悦(ユン・ソギョル)大統領の間での対面が実現した。両首脳が会うのは6月に続いて2回目。前回はマドリードでのNATO首脳会議拡大会合を利用、そして今回は国連総会と、共に単独の対面ではなく国際会議の場を利用したものだった。

この対面の実現までには紆余曲折があった。5月の尹新政権発足後、関係改善のため接触を続ける両国は、2019年12月以来途絶えている首脳会談実現に向け協議を続けてきた。

事件が起こったのは9月15日。韓国大統領府が突如、両国がニューヨークでの首脳会談に合意したと明らかにしたからである。韓国側の突然の発表に日本側は困惑。岸田首相は冒頭の言葉を口に出し、露骨に不快の意を示した。

明らかなのは、韓国側の日韓関係に関わる情報の取り扱いが粗雑なことだ。実際、新政権発足後、韓国側が情報をフライング、あるいは外交的に有利な形で色を付けて発表したのは、これが初めてではない。

例えば7月18日、東京で行われた新政権発足後初の日韓外相会談後の韓国メディア向けの記者会見で、朴振(パク・チン)外交部長官は元徴用工問題等の解決について「日本側も誠意を持って応じる用意があるという感じを受けた」と発言し、これを日本側が慌てて否定した。

なぜ努力を無駄にしかねない言動を繰り返す?

尹錫悦は大統領選挙時から、日韓関係悪化は前政権の失策の1つであり、就任後には改善に力を入れると明言してきた。しかしながら、彼らが真に日韓関係の改善に努めるなら、情報の管理は慎重に行われて当然である。にもかかわらず、韓国政府はどうしてその努力を無駄にしかねない言動を繰り返し行うのか。

韓国政府の矛盾した行動を理解する第一の鍵は、これらの発言が行われたのが主として自国メディアに向けた場においてだった、ということだ。尹政権は低支持率に苦しんでおり、国会の多数も野党に握られた状態にある。彼らにとって立法府の同意なく自由に活動できる外交は、世論に実績を誇示できる重要な場であり、だからこそ成果をアピールするために、色を付けて公表する傾向がある。

つまり、今の韓国の外交は「外交のための外交」よりも「内政のための外交」なのである。

プロフィール

木村幹

1966年大阪府生まれ。神戸大学大学院国際協力研究科教授。また、NPO法人汎太平洋フォーラム理事長。専門は比較政治学、朝鮮半島地域研究。最新刊に『韓国愛憎-激変する隣国と私の30年』。他に『歴史認識はどう語られてきたか』、『平成時代の日韓関係』(共著)、『日韓歴史認識問題とは何か』(読売・吉野作造賞)、『韓国における「権威主義的」体制の成立』(サントリー学芸賞)、『朝鮮/韓国ナショナリズムと「小国」意識』(アジア・太平洋賞)、『高宗・閔妃』など。


あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ロシア、米のウクライナ停戦案に懐疑的 高官筋が指摘

ワールド

中国商務省がウォルマートと協議、米関税コスト転嫁報

ワールド

ゼレンスキー氏故郷と南部オデーサにミサイル攻撃、少

ビジネス

「ザラ」のインディテックス、24年度10.5%増収
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本人が知らない 世界の考古学ニュース33
特集:日本人が知らない 世界の考古学ニュース33
2025年3月18日号(3/11発売)

3Dマッピング、レーダー探査......新しい技術が人類の深部を見せてくれる時代が来た

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦している市場」とは
  • 2
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は中国、2位はメキシコ、意外な3位は?
  • 3
    白米のほうが玄米よりも健康的だった...「毒素」と「腸の不調」の原因とは?
  • 4
    うなり声をあげ、牙をむいて威嚇する犬...その「相手…
  • 5
    スイスで「駅弁」が完売! 欧州で日常になった日本食、…
  • 6
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」…
  • 7
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 8
    トランプ=マスク独裁は許さない── 米政界左派の重鎮…
  • 9
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアで…
  • 10
    メーガン妃が「菓子袋を詰め替える」衝撃映像が話題…
  • 1
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやステータスではなく「負債」?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦している市場」とは
  • 4
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は…
  • 5
    メーガン妃が「菓子袋を詰め替える」衝撃映像が話題…
  • 6
    うなり声をあげ、牙をむいて威嚇する犬...その「相手…
  • 7
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」…
  • 8
    「コメが消えた」の大間違い...「買い占め」ではない…
  • 9
    「これがロシア人への復讐だ...」ウクライナ軍がHIMA…
  • 10
    著名投資家ウォーレン・バフェット、関税は「戦争行…
  • 1
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 4
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 8
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 9
    細胞を若返らせるカギが発見される...日本の研究チー…
  • 10
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story