米韓首脳会談で文在寅は弱腰批判を免れたが、バイデン外交の2つの基本「中国の体制批判」と「北朝鮮の非核化」は変わらない
しかしながら、この状況は当初、必ずしも韓国において諸手を挙げて歓迎された訳ではなかった。何故なら、この会談において中国への批判を強めるバイデンが、菅同様、文在寅に対しても同調を強く求めるのではないか、と見られたからである。言うまでもなく、韓国経済は日本より多くの部分を中国経済に依存しており、故に中国との関係悪化は時にその経済活動にも大きな影響を与える事になる。同様の米韓首脳会談に対する観測は日本でも見られ、とりわけ常日頃から韓国に対する批判のトーンの強い一部インターネットメディアは、文在寅はワシントンでこっぴどく批判されるのではないか、と「期待」した。
しかしながら、米国時間5月21日、ワシントンにて行われた首脳会談の結果は、その様な日本の「嫌韓的」なメディアのそれとは大きく異なっていた。共同声明において "China" という語は、「南シナ海」を示す語の一部として以外は一切登場せず、中国を直接的に非難する文言も入らなかった。台湾海峡を巡る問題についても、「平和と安定」を維持する事の重要性が述べられたに留まり、ミャンマーの人権状況を憂慮する言葉が入る一方で、香港やウイグルに関わる言及は行われなかった。
そして必ずしもその事は、首脳会談において文在寅が、これらの語句を入れる事に強力に抵抗したからではなかった。例えば、首脳会談後の記者会見において文在寅は、「(バイデンは)中国に対する強力な行動を促したのか」という質問に対して、極めて率直に「幸いにもそのような圧迫はなかった」と答えている。この発言には、韓国側が米国による圧迫を如何に恐れていたかと同時に、首脳会談の場で露骨な圧迫がなかった事に如何に安堵したかを、典型的に示している。
対北朝鮮でも韓国に配慮
そして同じ事は北朝鮮を巡る問題についても言う事ができる。この会談に先立って韓国の一部では、予想される北朝鮮の核問題に関わる言及において、それが「北朝鮮の非核化」と表記されるか、それとも北朝鮮が用いる「朝鮮半島の非核化」という表記が用いられるか、について注目が集まっていた。何故なら、前者においては非核化の対象は飽くまで北朝鮮の核兵器のみに留まるのに対し、後者においては在韓米軍が保有する核兵器もまた対象となる、と解釈される可能性があるからである。
尤も米国はこれまでも米韓間の会談においては、両者を大きく区別する事なく、「朝鮮半島の非核化」という表現を用いる事があったから、この違いに過剰な意味を見出す事もまた本来、行き過ぎであった。にも拘わらず、仮に共同声明において「北朝鮮の非核化」という用語が用いられれば、それが北朝鮮からの反発をもたらす可能性がある事もまた事実であったから、文在寅政権の憂慮に理由がない訳ではなかった。更に言えば、バイデンは実際「北朝鮮の非核化」という表現を過去に用いた事があり、退任前にもう一度北朝鮮側との対話を実現したい韓国側は、同じ表現が用いられる事で、ただでさえ悪化している南北関係が更に悪化するのではないか、との憂慮を強めていた。
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