コラム

韓国のG7参加を嫌う日本と冷静な韓国との差異

2020年06月05日(金)08時05分

しかし、その最後の関門の入り口で、韓国は躊躇を見せている。何故なら、今日、韓国もまたG7に代表される諸国の枠組みに加わることの利益とコストを考量するようになっているからだ。対中関係におけるトランプ大統領の姿勢への憂慮はその典型であり、仮にG7+4入りする事が利益よりも大きなコストをもたらすなら、無理を押してまで参加するのは合理的ではないということになる。そして何よりも重要なのは、かつては忠実な先進国の追随者であった韓国にとってすら、G7諸国に見られる「古い先進国」の姿が目指すべきモデルとしての輝きを失いつつある事である。

事実、新型コロナウイルスへの対策に典型的に見られた様に、政府が個人情報を徹底的に管理してこれを統制する韓国社会の在り方は、G7諸国のそれよりも中国に近い要素すら持っている。それは文在寅政権の進める検察改革についても同様であり、民主化を理由に政府が検察への介入を強める在り方は、検察官の独立を保障する多くの「古い先進国」の在り方とは大きく異なるものになっている。だとすれば、韓国は今、このまま「古い先進国」をモデルとして自らの歩みを続けるか、それとも新型コロナウイルス対策に見られた様な、独特の新たな「韓国型」のモデルを模索していくかの重要な分岐点に立っていることになる。

そしてその事は日韓両国の関係にも長い影を落とすことになる。何故なら、ここで韓国が後者を選ぶなら、彼らの社会は我々のそれとは更に異なるものとなり、相互の理解が難しくなっていくからである。韓国が日本をモデルとした時代は90年代のアジア通貨危機と共に終わり、それから四半世紀近くを経て、更に自信をつけた韓国はこれまでのどの先進国とも異なる独自の社会を築き上げようとしている。そしてそこにおいては、我々が同じ問題に同じ結論をもってし、同じ方向へと歩むことはますます困難になってゆくことなる。

隣人故に分かり合えた時代は終わり、隣人故に他人として付き合わなければならない時代に、日韓関係は直面している。如何にして、相互の距離を取り、冷静且つ冷徹、そして合理的に自らの国益を実現していくのか。そしてそれが可能になった時、我々にとっての「列強」と「植民地」の時代は、本当に終わることになるのかも知れない。

プロフィール

木村幹

1966年大阪府生まれ。神戸大学大学院国際協力研究科教授。また、NPO法人汎太平洋フォーラム理事長。専門は比較政治学、朝鮮半島地域研究。最新刊に『韓国愛憎-激変する隣国と私の30年』。他に『歴史認識はどう語られてきたか』、『平成時代の日韓関係』(共著)、『日韓歴史認識問題とは何か』(読売・吉野作造賞)、『韓国における「権威主義的」体制の成立』(サントリー学芸賞)、『朝鮮/韓国ナショナリズムと「小国」意識』(アジア・太平洋賞)、『高宗・閔妃』など。


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