コラム

韓国「巨大与党」誕生の意味

2020年04月20日(月)10時40分

そしてそれから約1カ月半。迎えた国会議員選挙にて、与党、「共に民主党」とその直接的な統制下にある「比例代表衛星政党」(今回の選挙に先だって行われた選挙制度改革に備える形で、与野二大政党は選挙戦に備えて、小選挙区に候補者を立候補させる従来の政党に加えて、その直接的な統制下にある「比例代表衛星政党」を立ち上げている。これはこの新たな制度においては、小選挙区で得た議席の少ない政党に対して、比例区で優先的に議席を与えることになっていたためである)は国会全300議席の60%に当たる180議席を得て圧勝した。因みにこの与党の獲得議席数は実質的な単一政党が得たものとしては、1987年の民主化以降の最大の数字である。逆に二大政党のもう一方を占める「未来統合党」/「未来韓国党」の議席数は僅か103議席に留まり惨敗。この数字も1990年に保守政党が統合を果たして以来、二大政党の一角を占める保守政党としては最小の議席数となっている。

情報公開と大量検査に信頼

そして今回の選挙において与党が獲得した60%の議席数は、韓国の国会において特殊な意味を有している。韓国では2012年に成立した「国会法一部改正法律」、通称「国会先進化法」によって、重要法案については、一定以上の期間と手続きによる与野党間の調整を必要することとなっている。この法律は野党にとって、国会での審議を引き延ばし、与党からの譲歩を引き出す重要な機会を提供することとなっており、政府・与党が自らの望む形での政策を実現する上での障害となって来た。
しかし同時に同法律は、「国会議員300人のうち180人以上が同意すれば、法案をファストトラック(迅速処理案件)とし、国会本会議に自動的に上程できる」とする例外規定を置いている。つまり、今回文在寅与党が獲得した180という議席数は、これまでは過半数の議席すら有していなかった与党が、今後は野党の抵抗をさほど考慮せずして、自らの望む法案を「迅速」に処理する事が出来るようになった事を意味している。

この与党の大勝をもたらした最大の原因は、既に別媒体でのインタビュー(日経ビジネス「韓国、コロナ対応に満足した国民が文政権を大勝させた」)でも述べた様に、文在寅政権による新型コロナ対策への韓国世論の好感である。そもそも韓国政府による新型コロナ対策は、例えば韓国ギャラップの調査でその初期段階の2月第2週でも64%の支持を集めるなど、当初から文在寅政権自身のそれよりもはるかに高い国民の支持を集めてきた。その最大の理由は、この対策においては、感染者に関わる積極的な情報公開と大量検査の実施により、個々の国民の不安感を払しょくする事に力を注がれて来たことである。必要であればいつでも検査が受けられる、という状況と、自らの近くに感染者が来れば知る事が出来る、という情報公開の在り方は、感染者のプライバシーに関わる情報が公開されるという問題をもたらす以上に、ウイルスへの感染に怯える人々に一定の安心感をもたらすことになった。

プロフィール

木村幹

1966年大阪府生まれ。神戸大学大学院国際協力研究科教授。また、NPO法人汎太平洋フォーラム理事長。専門は比較政治学、朝鮮半島地域研究。最新刊に『韓国愛憎-激変する隣国と私の30年』。他に『歴史認識はどう語られてきたか』、『平成時代の日韓関係』(共著)、『日韓歴史認識問題とは何か』(読売・吉野作造賞)、『韓国における「権威主義的」体制の成立』(サントリー学芸賞)、『朝鮮/韓国ナショナリズムと「小国」意識』(アジア・太平洋賞)、『高宗・閔妃』など。


あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 3
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 4
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 5
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 6
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 7
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 8
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 9
    注目を集めた「ロサンゼルス山火事」映像...空に広が…
  • 10
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story