踊り場に来た米韓同盟:GSOMIA破棄と破棄延期の真意
しかしその事は、彼らが更にアメリカとの同盟関係を強化しようとしている事を意味しない。例えば、今年1月にリアルメーターという異なる調査会社が行った世論調査によれば、在韓米軍の駐留経費増に反対する人は58.7%と過半数を超えている。とはいえ、在韓米軍の駐留経費負担増が韓国国民の負担増につながるのは明らかであるから、これだけならさほど不思議な数字とはいえない。注目すべきは、この調査では「経費引き上げに応じなければ、アメリカは在韓米軍の削減や撤収をすると言われた時にどうするか」をも聞いていることであり、その場合でも52%以上もの人々が、それでも駐留経費増には反対する、と答えている事である。しかもこの数字は、大統領支持者に限れば71.5%、与党「共に民主党」支持者でも70.7%にまで達している。自らの支持者が強く望む以上、文在寅政権がアメリカの要求を容易に受け入れられない事は明らかである。
それなら、この様な回答は韓国の人々が、例えば経済的苦境の中、安全保障に支出する余裕がなくなっている事を意味しているのだろうか。それとも北朝鮮との対話を重視する「リベラル」な文在寅政権の下、人々は同盟国のそれをも含む、朝鮮半島を巡る軍備拡張全般に対して消極的な考えを持つに至ったのだろうか。
保守政権より高い軍事費の伸び
しかし、これらの想定は当たっていない。何故なら、文在寅政権に入ってから、韓国自身の国防費は逆に急速に拡大しているからだ。2018年の国防費の増加率は7.0%、2019年は8.2%に達しており、2020年にも7.4%の増加率が予定されている。これらの数字はこの10年間、つまり、李明博、朴槿恵と続いた保守政権のいかなる時期と比べても高いものになっている。
増加する国防費の内容も重要だ。新たな戦力整備の為に充てられる「防衛力改善費」の増加率は国防費そのものを上回る8.6%、文在寅政権発足後の平均増加率は11%にも及んでおり、李明博・朴槿恵政権の二倍以上にも及んでいる。そして、この様な大きな国防費の増加に対して、韓国では大きな議論は発生していない。
それでは何故、韓国では在韓米軍の駐留経費増加については厳しい世論が存在する一方で、自らの国防費の増加には寛容な状況が生まれているのだろうか。その理由は簡単だ。韓国の進歩派、わかりやすくいえば左派は、元来経済のみならず、安全保障面においても、大国の影響圏から離脱して、「自主自立」を確立する事を重視しているからである。そして韓国が影響圏から離脱すべき大国とはいうまでもなく、様々な場面で韓国に圧力をかけ続ける同盟国のアメリカに他ならない。
注意すべきは、今日の韓国の人々が求めているのが、韓国の「自主自立」の実現であって、アメリカからの影響圏の離脱は、その「過程」にしか過ぎない事である。即ち、仮にアメリカの影響圏からの離脱が、もう一つの大国である中国の影響圏へ入る事を意味するなら、彼らの目指す「自主自立」の実現はむしろ遠ざかる事になる。今日の韓国の人々は2015年、THAAD配備問題で対立した結果、中国から経済制裁を科された経験を強く有しており、中国に対しても良い印象を有していない。
韓国・尹錫悦大統領に迫る静かなる危機と、それを裏付ける「レームダック指数」とは 2024.11.13
「ハト派の石破新首相」という韓国の大いなる幻想 2024.10.16
全斗煥クーデターを描いた『ソウルの春』ヒットと、独裁が「歴史」になった韓国の変化 2024.09.10
「ディオール疑惑」尹大統領夫人の聴取と、韓国検察の暗闘 2024.08.06
韓国が「佐渡の金山」の世界遺産登録に騒がない訳 2024.07.03
「出生率0.72」韓国の人口政策に(まだ)勝算あり 2024.06.05
総選挙大勝、それでも韓国進歩派に走る深い断層線 2024.05.08