コラム

韓国は、日本の対韓感情が大きく悪化したことをわかっていない

2019年10月16日(水)18時00分

文在寅が野に下れば韓国はより親日的になる、というのは日本の勘違い(9月18日、ソウルの青瓦台にて) 写真提供:韓国大統領府

<最近韓国で行われたシンポジウムで、南北統一という本来の主題そっちのけで安倍政権下ろしの大合唱が起こった。度を越しているが、なぜこんなことになったのか>

「そういう話が聞きたいんじゃないです。どうしてもっと違う人を呼んでくれなかったんですか」

──異様な光景だったと言って良いであろう。

先月末、招待されて韓国の国際シンポジウムに参加した。シンポジウムの名前は「DMZフォーラム」。北朝鮮と韓国の間を走るDMZ、つまり非武装地帯のある韓国の自治体、京畿道が主催する大規模国際シンポジウムだった。名称そのものが示唆している様に、シンポジウムの主題は朝鮮半島の統一問題であった。この自治体、京畿道の知事は前回2017年の大統領選挙で与党「共に民主党」の候補者の座を争った李在明。だからこそシンポジウムには、海外からの賓客と並んで、彼に近い与党政府関係者が大挙して詰めかけ、その有様は一見、与党・政府に近い韓国の進歩派の決起集会の様にすら見えた。

とはいえ、それだけなら韓国においては、それほど特別なものではない。よく知られている様に、今日の韓国の世論は与党・政府に近い進歩派(左派)と、現在野党の側に回っている保守派(右派)に大きく二分されており、一方の陣営が自らに近い人々を国内外から集めて国際会議やシンポジウムを行うこと自体は珍しくないからだ。文在寅政権の外交姿勢からもよくわかる様に、朝鮮半島の統一問題は進歩派が好んで取り上げるテーマであり、この問題を主題とするシンポジウムに進歩派の論客が挙って参加するのも、ごくごくありふれた風景である。

反日の言説には驚かないが

筆者を驚かせたのは、その事ではなかった。すでに述べた様にこのシンポジウムは将来の朝鮮半島の統一問題を議論するものであり、日韓関係そのものは第一義的な議論の対象ではなかった。しかしながら、多くのセッションでは、本来の議論の主題を離れて日韓関係についての質問が司会者やフロアから発表者に浴びせられ、結果として様々な議論が行われた。とはいえそれでもまだここまでなら驚くには値しない。日本でも報道されている様に、7月の経済産業省による輸出管理措置の発表以後、韓国では強い反日感情が見られる様になっており、現在に至るまで大規模な日本製品ボイコット運動や日本への観光旅行を控える動きが続いている。このような状況を考えれば、韓国の人々が日韓関係に強い関心を寄せ、これを熱心に議論するのは当たり前と言えた。
 
筆者が驚いたのは、人々の日韓関係への関心の強さよりも、むしろそのトーンだ。例えば、メインセッションの一つに呼ばれた盧武鉉政権期の元統一部長官である李在禎は大ホールに詰めかけた一般の聴衆に向けてこう呼びかけた。「日本の安倍政権は我々に不当な圧力をかけている。我々は今こそ市民の力を集めて、この政権を打倒せねばならない!」フロアに詰めかけた聴衆はこの言葉に拍手で応え、その場は恰も「安倍政権打倒決起集会」の様相になった。

プロフィール

木村幹

1966年大阪府生まれ。神戸大学大学院国際協力研究科教授。また、NPO法人汎太平洋フォーラム理事長。専門は比較政治学、朝鮮半島地域研究。最新刊に『韓国愛憎-激変する隣国と私の30年』。他に『歴史認識はどう語られてきたか』、『平成時代の日韓関係』(共著)、『日韓歴史認識問題とは何か』(読売・吉野作造賞)、『韓国における「権威主義的」体制の成立』(サントリー学芸賞)、『朝鮮/韓国ナショナリズムと「小国」意識』(アジア・太平洋賞)、『高宗・閔妃』など。


あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 6
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 7
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 8
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 9
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 10
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ...犠牲者急増で、増援部隊が到着予定と発言
  • 4
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 9
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 10
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 10
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story