コラム

中古ショップで見える「貧困」の真実

2016年02月05日(金)17時00分

世の中には圧倒的に不利な取引に応じてしまう人がいる serdjophoto-iStock.

 時々僕は、自分が周りの人々とは違った経済的「空間」に暮らしているのだと思い知らされる。

 他人と比べてすごくリッチだとか貧しいとかいうことではない。むしろ言いたいのは、僕が基本的には「ミコーバー派」だということ。ミコーバーはチャールズ・ディケンズの小説『デイヴィッド・コパフィールド』の登場人物で、幸福とは収入より支出を小さくすることであり、不幸とはその反対だ、と明確に説いている。

 先日僕は、中古DVDショップ(と僕は呼んでいる)を見て回っていて、「反ミコーバー派」はいかにして振る舞うのか、というのを目の当たりにした。

 多くの人々にとって、この手の店は現代の質屋のようなものだ。彼らはカネに代えられそうなものを持ち込む。見終わったDVDに限らずテレビやゲーム機やiPadや日曜大工道具だってそうだ。

【参考記事】栄華を誇った英スーパーの衰退

 1軒目の店で僕の近くに立っていた女性は不安げな様子でスマートフォンを売ろうとしていた。200ポンドほどもしそうなスマホを40ポンドで売っているのだ。買い取りされる前に、彼女はそのスマホで最後の通話をする必要があったようだった。たぶん、カネを借りている友人だろう。「30分後には持って行くから」と彼女は話していた。それから彼女はスマホを売り、データが入ったチップだけ受け取った。それから彼女は、店員に「20ポンド前後の」安い携帯を今この店で買いたいんだけど、と相談していた。

 ほんの20ポンドの現金を得るために高価な携帯を無駄にして安い携帯を買うことがどれほどばかげて見えるか、説明するまでもないだろう。明らかに、店は安く買って高く売っている。もしも彼女が安い携帯でなんとか事足りるのなら、そもそもなぜ高いスマホなど買ったのだろう......。だが僕がもっと気になったのは、店員が明らかに何も感じていないようだったことだ。こんな客に驚くどころか、むしろこういうケースは日常茶飯事らしい。

プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

独ZEW景気期待指数、1月は10.3 予想以上に低

ビジネス

トランプ米政権の政策、銀行は影響を分析 混乱から利

ビジネス

台湾輸出受注、12月20.8%増と3年ぶり伸び率 

ビジネス

ビットコインなど高値から後退、トランプ氏就任初日の
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプの頭の中
特集:トランプの頭の中
2025年1月28日号(1/21発売)

いよいよ始まる第2次トランプ政権。再任大統領の行動原理と世界観を知る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性客が「気味が悪い」...男性の反撃に「完璧な対処」の声
  • 2
    被害の全容が見通せない、LAの山火事...見渡す限りの焼け野原
  • 3
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 4
    メーガン妃とヘンリー王子の「山火事見物」に大ブー…
  • 5
    本当に残念...『イカゲーム』シーズン2に「出てこな…
  • 6
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 9
    台湾侵攻にうってつけのバージ(艀)建造が露見、「…
  • 10
    身元特定を避け「顔の近くに手榴弾を...」北朝鮮兵士…
  • 1
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性客が「気味が悪い」...男性の反撃に「完璧な対処」の声
  • 2
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 3
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 4
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 5
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 6
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀…
  • 7
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 8
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 9
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 10
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 9
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
  • 10
    中国でインフルエンザ様の未知のウイルス「HMPV」流…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story