コラム

加計学園問題は、学部新設の是非を問う本質的議論を

2017年06月19日(月)17時00分

さはさりながら、この特区を使うしか現実的に規制緩和の方法がないとされているのが現状です。そうした状況下で、果たして加計学園を選ぶことが、そのプロセスも含めて妥当だったのか?というのが恐らく多くの国民が疑問に思われている点でしょう。つまり、獣医学部設立の必要性や要件も含めて突き詰めた審議の上での決定だったのかが非常に重要となります。それを確認するのが2つ目のフェーズですが、それにはこれまでの会議の議事録を確認するのが最も手っ取り早いわけです。

ところが、そうした議事録の緻密な内容確認や詳細な検証をほとんどなさらない(なぜ「総理のご意向」と書かれた内部文書の存在だけにこだわるのか、もっと雄弁に語る公開された文書はいくらでもあるのに)、政権批判ありきと言われても仕方ないようなそれまでの野党側の追及姿勢にも個人的には疑問を呈さずにはいられません。

ここにきて多少なりとも議論の内容が変わりつつあるにしても、前川氏の人物評価に終始することなどがその最たるものですが、「狐と狸の化かし合い」の様相を呈する、本質論とはかけ離れた議論で終始することを一市民としては危惧しています。

短すぎる審議時間

さて、安倍総理が議長を務め審議の場とされる「国家戦略特別区域諮問会議」ですが、平成26年1月からこれまでの30回開催されています。運営規則を見ると審議内容が非公表になる場合もあるようですが、実際の会議資料を見ると過去非公表の部分はその旨の指摘がキチンとされていて、当初非公開部分を公開との注釈もありますので、現状では全て公開されている状態と思われます。

【参考記事】政治活動にほとんど参加しない日本の若者

会議の時間が長いことが良いとは決して思いませんが、開催要項の日時を見ると最短でわずか16分、最長で51分、平均すると26.4分の諮問会議時間になっています。ここでは獣医学部以外の特区についても議案にのぼりますから、全ての時間を今治あるいは獣医学部の話に費やしているわけではありません。30回開催された会議の中で獣医学部の話が出たのは8回。他22回は獣医という単語すら出てきていません。

審議時間の短さや回数の少なさの問題よりも、その8回のいずれの回にも獣医学の有識者の出席が確認できないことにかなりの違和感を覚えます。獣医師会が仮に獣医学部新設の抵抗勢力であったとしても、獣医学の知見や専門性を排除したまま、世界水準の人獣共通感染症について、そしてそのための獣医学教育について議論の深堀ができるのか?

実際には具体的な検討は諮問会議の下部組織である分科会やワーキング・グループが行うため、そこで出てきた議案を諮問会議で報告のような形で吸い上げ、確認する議事録内容になっています(報告の確認だけなら会議時間は短くて当然)。これで果たして諮問会議で審議が尽くされたと言えるのか? その中でなぜ加計学園になったのか疑問とされても致し方ないのではないでしょうか。

プロフィール

岩本沙弓

経済評論家。大阪経済大学経営学部客員教授。 為替・国際金融関連の執筆・講演活動の他、国内外の金融機関勤務の経験を生かし、参議院、学術講演会、政党関連の勉強会、新聞社主催の講演会等にて、国際金融市場における日本の立場を中心に解説。 主な著作に『新・マネー敗戦』(文春新書)他。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

テスラ、第1四半期売上高が予想下回る 25年見通し

ビジネス

FRBの独立性、経済成果に「不可欠」=ミネアポリス

ワールド

ウィットコフ米特使、週内にモスクワ訪問 プーチン氏

ワールド

インド・カシミール地方で武装勢力が観光客に発砲、2
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 2
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 3
    パウエルFRB議長解任までやったとしてもトランプの「利下げ」は悪手で逆効果
  • 4
    日本の人口減少「衝撃の実態」...データは何を語る?
  • 5
    アメリカは「極悪非道の泥棒国家」と大炎上...トラン…
  • 6
    【クイズ】世界で最もヒットした「日本のアニメ映画…
  • 7
    コロナ「武漢研究所説」強調する米政府の新サイト立…
  • 8
    なぜ世界中の人が「日本アニメ」にハマるのか?...鬼…
  • 9
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 10
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?.…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇した「透けレギンス」投稿にネット騒然
  • 4
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判…
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初…
  • 7
    【クイズ】売上高が世界1位の「半導体ベンダー」はど…
  • 8
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 9
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 10
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 3
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 7
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 8
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 9
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 10
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story