トランプの経済政策は、アメリカだけが得をする「歪んだグローバリズム」
もう少し続くかと思った株安・ドル安は選挙結果の判明した東京時間だけという極めて短期で収束しましたので(しかし米国債だけは2016年11月12日現在、売り継続)、実体経済の地味な成長とはかけ離れた株高、今後リパトリエーションで発生するであろうドル高への思惑とともに短期筋は盛り上がり、過去の遺物として葬りさったはずの投機筋も大々的な復活の機会をうかがっているでしょう。決して少なくない米国のグローバル企業が嬉々としているはず。
大規模減税で米財政赤字は膨らみますが(超党派の非営利組織「責任ある連邦予算委員会(CRFB)」の試算ではクリントン氏が政権を取った場合と比べて10年で約550兆円増)それが実体経済の急速な減速など悪影響を及ぼすのはもう少し先。同盟国への防衛費負担増などを求められ、それを渡りに船とばかり飛びついて消費税増税をすれば、米国発の急速な景気後退局面と相まって日本の実体経済はますます厳しいことに――と羅列はしてみましたが、今の段階での判断は時期尚早です。というのも、何もできないまま4年が過ぎることも考えられるからです。早速、オバマケア撤廃とした選挙公約を見直すとのニュースも出てきました。イニシアチブを発揮しないリーダーの周囲には何かと画策する面々も集まってくるでしょうから、全ては今後の具体的な政策次第ということになります。それでもなお、国民の価値観の分断だけは禍根として残ることになります。
それにしても今回の大統領選の有権者の投票率の低さは気になるところ。共和党支持者は通常通り投票に行き、民主党支持者の無投票が多かったようです。有権者の投票率が72.2%(前年の英総選挙は66.1%)と高い国民投票で決まったBrexitとはその意味において単純比較はできないとは思いますが、Brexit後に見られたヘイトクライムが米国内でも報告され始めています。こうした動きの拡大阻止のためにも、理想論と言われようと、建設的な国民統合からは程遠く、経済的にも精神的にも不健全で退廃的な政策や態度には毅然とNOを示す必要があるはず。それが多数決の結果である民主主義のもたらす「欠乏」を埋める作業になりうると考えるからです。
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