コラム

トランプの経済政策は、アメリカだけが得をする「歪んだグローバリズム」

2016年11月14日(月)15時50分

Brendan McDermid-REUTERS

<トランプの勝因を「反グローバリズム」とする見方がある。しかしその実態は、商取引では保護主義、一方で国外で稼いだ利益はアメリカに還流しやすくさせようという、グローバリズムの「いいとこ取り」>(写真:大統領選の翌日のニューヨーク株式市場)

 大統領選挙期間中、いずれの候補に次期大統領をのぞむかと尋ねられる度にきっぱりヒラリー・クリントン候補と答えてきました。最も敬意を表する知識人の1人であるエマニュエル・トッド氏や、その著作の訳者であり朋友である堀茂樹教授が、どんなにドナルド・トランプ氏を予測しても、彼らの分析がかなり正鵠を得ていることも、その可能性があることも承知した上で、一歩も引くことはしませんでした。

 その意味ではワタクシのバイアスはニュートラルではありませんでしたし、この期間ひたすら「べき論」を語っていただけに過ぎないとも言えます。「トランプ氏にはかなり問題があると思いますが、選挙は勝つでしょう」というような生易しい評論をする気には全くなれませんでした。結果的にトランプ勝利を予測しなかったことが発信者としての知的怠慢と批判されるのも受け止める覚悟をしてきたつもりです。

 格差是正でも「反グローバリズム」に象徴されるような国民統合でもなく、差別を際立たせることでマイノリティーに国民の不満のはけ口を向けるような、むしろ国民間の価値観の分断をよしとする人物をワタクシの立場としては受入れることは出来ませんし、障がい者やLGBT、女性も含めて、彼の当選後に起こるであろうマイノリティーに対するヘイトクライム等の可能性を放っておくわけにはいきませんでした。

【参考記事】世界経済に巨大トランプ・リスク

 特段、クリントン候補の政治スタンスや手腕を評価しているわけではありませんし、初の女性大統領を望んでのことでも全くありません。人権擁護の観点以外の支持の理由は非常にシンプルで、現実的にオバマ政権の経済政策をどちらがより踏襲するのか、という点だけに限られます。

 8年前、オバマ氏が次期大統領に選出された時、まずは彼がこの先の4年、8年無事大統領の満期を務められるのか、黒人初の大統領として反発もあったでしょうし、心底心配していました。しかし、彼の任期もあとわずかとなりました。

 もちろん、経済的合理性・要因だけで選挙は決まるわけではありませんが、オバマ氏の経済政策が地道に成果をあげてきたのは間違いありません。最新の米国勢調査局の公表では米国民全体の所得増、貧困率の低下、医療保険の加入率アップと三つの指標でアメリカ社会全体の格差是正が確認されました。それは有権者にも確実に届いているはず。

プロフィール

岩本沙弓

経済評論家。大阪経済大学経営学部客員教授。 為替・国際金融関連の執筆・講演活動の他、国内外の金融機関勤務の経験を生かし、参議院、学術講演会、政党関連の勉強会、新聞社主催の講演会等にて、国際金融市場における日本の立場を中心に解説。 主な著作に『新・マネー敗戦』(文春新書)他。

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