トランプの経済政策は、アメリカだけが得をする「歪んだグローバリズム」
より具体的に、2015年の米家計所得の中央値(平均値ではなく集団の真ん中の値)は5万6516ドル、2014年の5万3718ドルからの5.2%増の伸び率は統計開始の1968年以来最大です。中央値の過去最高であったITバブル真っ只中の1999年5万7909には2.4%及ばないものの、また住宅バブルのピーク時だった2007年の5万7423には1.6%及ばないものの、最高水準にあります。2015年の貧困率13.5%、対前年比1.2%減は1999年以来最大の低下率であり、所得増も貧困率の改善も幅広い年齢、地域、人種、性別を問わず広がっています。トランプ陣営は「(オバマ政権下で)Paychecks have been stagnant(給料は停滞してきた)」としますが、これは虚偽ということになります。
なぜか日本国内でもすこぶる評判が悪かったオバマケアですが、実際にはそのおかげで医療保険に一切カバーされていない非加入率が2015年には9.1%にまで低下。特にYoung Adultと称される若い世代の非加入率は2010年に30%と全世代と比較しても突出して高かったのが2015年には劇的に改善しています。トランプ陣営は「health insurance, has not been a success(オバマケアは成功しなかった)」としますがこれもまた事実と異なります。
【参考記事】<動画>「トランプはわたしの大統領ではない」全米各地で抗議デモ
派手さがなかったと米国民には映ったのかもしれませんが、着実な実体経済の回復は極めて地味なものです。チェンジは劇場型とは限らないし、経済に劇的・爆発的チェンジを求めれば、かつてのサブプライム・バブルのような信用取引の拡大に繋がる恐れがあります。それをドット・フランク法(サブプライムの反省から野放図だった金融規制に関して、消費者保護を主眼にデリバティブの包括的規制などを中核に据えて実施)で抑え込んだのがオバマ氏の経済政策でもあります。彼の政策が100%完璧だったとは言いませんが、正当な評価を受けるべきでしょうし、議会との対立の中で中間層復活のために本当に尽力したと思います。
例えば所得税に関して、トランプ氏の選挙公約ではこれまで7つの税率区分の連邦所得税を3つに削減、最高税率は現在の39.6%から33%への引き下げ、相続税(死亡税)も廃止の方向です。議会で全て承認となれば、年収370万ドル以上の上位0.1%富裕層は年間100万ドルの節税との試算もあります。80年代のレーガン政権以降、いわゆる新自由主義の台頭で上位1%の富裕層の所得税減税が実施されてきましたが、オバマ政権での課税見直しによりその負担が1979年水準まで戻っていたにも関わらず、これで逆戻りとなります。
あれほど格差是正を待ち望んでいたはずの米国民が格差拡大、富裕層優遇を是としたのが今回の結果です。出口調査では低所得者層はクリントン支持ですが、それ以外の層は格差を是認しても、富裕層を圧倒的に利するとしてもなお避けたい、嫌忌する何かがあるということでしょう。
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