賃金格差の解消こそが女性の雇用を後押しする
というのも、正規労働者の数字は全体として減っていますから家計全体で見れば手取りは年を追うごとに低下傾向にある中で、女性の非正規労働者増が見てとれるためです。夫の賃金減を補うために「いたしかたなく」パートに出ているのではなかろうか。生活に追われているだけに、そこに自分の能力を生かせるという発想が入り込むが余地はなく、切実な経済状態からなのではないか。
事実、総務省の発表した家計調査報告書の勤労者世帯の収支をみると(2015年6月の二人以上の世帯のうち勤労者世帯)、世帯全体の収入の約8割を占める世帯主の定期収入は17カ月連続して実質減少しています。一方、全体の収入の約1割程度にしか満たない配偶者の収入はこの3か月連続の増加、全体の収入の2%に過ぎない他の世帯員の収入も6か月連続の増加となっています。つまり、夫の定期収入減が続く中、妻や子供などのパート収入で家計をやりくりしている状況がうかがえるわけです。
さて、非正規労働関連に留まらず、惨憺たるILO条約の日本の批准状況について。2015年7月現在、189のconvention(条約)と6のprotocol(協約)の批准状況がILOのHP上で公表されています。日本は今のところ49本の採択ですから採択率は25.9%。ILO加盟国は186か国あり、主要国の採択数は最多のスペイン133を筆頭にフランス126、以下欧州各国が続きます。傾向として、『高福祉・高負担』の欧州で条約批准数が多く、『低福祉・低負担』の米国、あるいは中国・インドのような新興国では少ないとくっきり分かれています。
前回、消費税のお話もしましたので、それに絡めて言えば、消費税増税の理由として高福祉が必ず持ち出されます。そうした指摘が所詮詭弁に過ぎないと言わざるを得ないのは、仮に欧州型の『高福祉・高負担』国家を目指すのであれば、増税前の社会体制作りとして、取りあえずは社会正義・福祉を念頭にしたILO条約などの批准数を欧州並みに引き上げてから、というのが道理のはず。にもかかわらず、そうした主張ほとんど聞こえてこず、批准に前向きな動きもないためです。
あるいは米国と同じ『低福祉・低負担』でいくならば、消費税はなしとなるはず。ラフな話ではありますが、①国家としてのグランドデザインを決めた上で、②そのための税制、社会福祉制度などの体制を整えてから③労働者派遣法などの改正といった順番が妥当で、①は表向きには高福祉・高負担を謳いながら、実は伴わず福祉は削減方向、②はスルーで③だけに猛進するのですから、これでは一般国民が疲弊してしまいます。制度・政策上の矛盾は弱者へしわ寄せとなりやすく、これでは国際労働基準が理想とする経済成長と社会福祉が手を携えるような「公平かつ包摂的で公正な社会の構築」とはかけ離れてしまいます。
この筆者のコラム
アメリカの「国境調整税」導入見送りから日本が学ぶこと 2017.08.04
加計学園問題は、学部新設の是非を問う本質的議論を 2017.06.19
極右政党を右派ポピュリズムへと転換させたルペンの本気度(後編) 2017.04.13
極右政党を右派ポピュリズムへと転換させたルペンの本気度(前編) 2017.04.12
トランプ政権が掲げる「国境税」とは何か(後編) 2017.03.07
トランプ政権が掲げる「国境税」とは何か(前編) 2017.03.06
ブレグジット後の「揺れ戻し」を促す、英メイ首相のしなやかな政治手腕 2016.12.26