コラム

賃金格差の解消こそが女性の雇用を後押しする

2015年08月03日(月)16時40分

 雇用形態の多様化がすべて「悪」と言っているわけではありません。何を隠そうこのワタクシ自身も子育てをしながらこうして不定期に執筆活動に勤しめるのも、IT技術の革新のおかげですし、その時々のライフスタイルにも照らし合わせて仕事を選ぶことができるため。仕事の仕方に柔軟性を持てる、というのは本当に助かります。新規参入者として正規雇用での採用が狭き門でもパートタイムであれば目指す仕事に就け、後のキャリア・アップのための第一段階となる場合もあるでしょう。

 しかしながら、それは十分な賃金が支払われればという前提があってこその話です。非正規化をすすめるならオランダやオーストラリアのように雇用者の権利を最低限守る法令をまずは国内で規定する、国際条約を批准するのが当たり前のことです。ILO条約は決して労働者を過度に守るために厳しく設定された水準ではなく、各国様々な状況に照らし合わせ、最低限これぐらいは守るべきというような低く設定された水準です。「同一労働・同一賃金」に代表されるような最低限の権利を考えることなく、非正規などの制度だけ日本のように推し進めれば弱者にしわ寄せがいくのは目に見えています。それが長らく日本経済全体の停滞にも繋がっていることは看過できないという点もILO報告の内容とともに前回お伝えした通りです。

 ちなみに、米国はこの175条約は批准していませんが、つい最近はカリフォルニア州の話題が伝わってきているように、最低賃金を15ドル(1ドル120円換算で時給1800円)とする条例が昨年来多くの自治体で可決されています。日本の最低賃金の全国平均18円の答申がありましたが、この通りの引き上げとなっても全国平均は798円。米国の1800円とは倍以上の開きがあります。連邦国家としてILO条約を批准してなくとも、州ごとに対応しているとも言えます。米国社会の中での格差はもちろん、酷いものですが、それを是正する方向で実際に動き出しています。
 
 アベノミクスがスタートしてから女性の就業数は確かに増えています。が、問題はその働き方でしょう。2014年度の男女別雇用状況(カッコ内は対前年比)を見ると、
・男性:正規労働者2259万人(マイナス8万人)、非正規労働者630万人(プラス20万人)
・女性:正規労働者1019万人(マイナス8万人)、非正労働者1332万人(プラス36万人)
となっています。

 女性就業者の56.7%が非正規労働者であり、非正規労働の男女別で見れば67.9%が女性です。高賃金の正社員の男性が市場から退場する中で、その埋め合わせは低賃金労働の女性がしている傾向がうかがえます。最近では補助労働だけでなく基幹パートなどもありますが、キャリア・アップをはかれるような、あるいは能力を発揮できるような仕事にどれほどの女性が就いているのか、応分の賃金を確保できているのか、甚だ疑問です。

プロフィール

岩本沙弓

経済評論家。大阪経済大学経営学部客員教授。 為替・国際金融関連の執筆・講演活動の他、国内外の金融機関勤務の経験を生かし、参議院、学術講演会、政党関連の勉強会、新聞社主催の講演会等にて、国際金融市場における日本の立場を中心に解説。 主な著作に『新・マネー敗戦』(文春新書)他。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米、シリアでIS拠点に大規模空爆 米兵士殺害に報復

ワールド

エプスタイン文書公開、クリントン元大統領の写真など

ワールド

アングル:失言や違法捜査、米司法省でミス連鎖 トラ

ワールド

アングル:反攻強めるミャンマー国軍、徴兵制やドロー
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開したAI生成のクリスマス広告に批判殺到
  • 2
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 3
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 4
    中国最強空母「福建」の台湾海峡通過は、第一列島線…
  • 5
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦…
  • 6
    おこめ券、なぜここまで評判悪い? 「利益誘導」「ム…
  • 7
    ゆっくりと傾いて、崩壊は一瞬...高さ35mの「自由の…
  • 8
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 9
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 10
    ロシア、北朝鮮兵への報酬「不払い」疑惑...金正恩が…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 9
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 10
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 6
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 9
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story