コラム

『わかりやすさの罪』から抜け落ちている「わかりやすさ」との戦い方

2020年09月23日(水)18時25分

取材をすることで相手に情が移ってしまい、筆が鈍るので取材を控えるという人もいる。小説家やコラムニストならそれも許されるだろう。だが、私には「情が移る自分の弱さ」を感じるためにも取材が必要なのだ、という当たり前の話にしかならない。

本書を読んで思う。視る力を鍛え、文章に力を与える取材はあまりにもコストがかかり非効率的だ、と。苦労する取材をせずに、ある立場から読者にカタルシスを与える文章や評論を書き続け、しかも売れるのならば、そちらの道は「わかりやすく」効率的だ。私が頭を抱えてしまうのは、「わかりにくい」現場や人間を知るためには無駄な労力をかけなければならない、という価値観を持っていることに理由がありそうだ。

<本誌2020年9月1日号掲載>

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プロフィール

石戸 諭

(いしど・さとる)
記者/ノンフィクションライター。1984年生まれ、東京都出身。立命館大学卒業後、毎日新聞などを経て2018 年に独立。本誌の特集「百田尚樹現象」で2020年の「編集者が選ぶ雑誌ジャーナリズム賞作品賞」を、月刊文藝春秋掲載の「『自粛警察』の正体──小市民が弾圧者に変わるとき」で2021年のPEPジャーナリズム大賞受賞。著書に『リスクと生きる、死者と生きる』(亜紀書房)、『ルポ 百田尚樹現象――愛国ポピュリズムの現在地』(小学館)、『ニュースの未来』 (光文社新書)など

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