コラム

コロナ禍で逆にグローバル化を進めるテロ組織とあの国

2020年09月02日(水)16時25分

「イスラム国」は往時の勢いを取り戻すのか(2014年) REUTERS

<世界でグローバル化退潮の兆候があるなか、「国境線は無関係」とばかりに攻勢を強めるイスラム過激派と、それと「連携」するイラン・トルコ。本誌「コロナと脱グローバル化 11の予測」特集より>

新型コロナウイルス対策として各国が国境を閉鎖し、移動が制限されたことは、グローバル化退潮の証しに見える。しかしこれを好機とばかりに、より一層グローバル化している勢力もある。イスラム過激派だ。
20200901issue_cover200.jpg
全世界がイスラム教で統治される1つの共同体になるべきと信じる彼らは、国民国家で構成される現在の世界秩序を否定している。2014年、「イスラム国(IS)」がイラクとシリアにまたがる領域でカリフ制国家樹立宣言をしたのがその象徴だ。

一度は支配地域の大部分を失った「イスラム国」は、8月にはモザンビークの主要港の1つ、モシンボアダプライア港を制圧し領域支配を確立させるなど、軍や治安部隊がコロナ対策に追われテロ対策が手薄になるなか、攻勢を強めている。

インドネシアのシンクタンク、紛争政策分析研究所(IPAC)は4月、「イスラム国」系組織がコロナ禍を利用し活動を活発化させていると報告した。6月にはそのメンバーとみられる男により警官が殺害され、8月には15人がテロ容疑で拘束された。南シナ海の島しょ部は「イスラム国」が自由に活動を展開する「楽園」の1つである。正式な国境を通って越境するわけではない彼らにとって、国境閉鎖は無関係だ。

イスラム過激派は、自らの正当性を主張するために政府のコロナ対策を批判する、という形でもコロナ禍を利用している。タリバンは検疫の様子をSNSに投稿し、アフガニスタン当局よりもコロナ対策に尽力しているとアピールした。武力を用いてイスラム教による世界征服を目指す彼らを、私たちはイスラム過激派とかテロ組織と呼ぶが、彼らは自らを神の命令に忠実な正義の主体であると信じている。

過激派と特定の国家とのグローバルな「連携」も顕著だ。

コロナ禍でイラク駐留米軍が規模を縮小するなか、米軍基地や米大使館に対するロケット弾攻撃が頻発。米当局はイラクのシーア派武装勢力カタイブ・ヒズボラ(KH)を非難している。KHはイランが武器や資金を与えて操る代理組織だ。5月にイラク新首相となったムスタファ・カディミは、イラク国内でイラン権益拡大のための活動を続けてきたKHとの対決姿勢に転じ、6月には治安部隊がKH本部を急襲した。

イランはイラクだけでなくシリア、レバノン、イエメンなどでも、代理組織を操ることでテロ攻撃を実行したり内戦に関与したりしている。アメリカやアラブ諸国が世界最大のテロ支援国家と名指しするゆえんだ。

【関連記事】「感染者は警察や役所でウイルスを広めよ」コロナまで武器にするイスラム過激派の脅威

プロフィール

飯山 陽

(いいやま・あかり)イスラム思想研究者。麗澤大学客員教授。東京大学大学院人文社会系研究科単位取得退学。博士(東京大学)。主著に『イスラム教の論理』(新潮新書)、『中東問題再考』(扶桑社BOOKS新書)。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必死すぎる」「迷走中」
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    深夜の防犯カメラ写真に「幽霊の姿が!」と話題に...…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 8
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 9
    トランプが「マスクに主役を奪われて怒っている」...…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story