コラム

2024年世界選挙の年、世界のあり方が変わるかもしれない

2024年01月10日(水)17時25分

読者の多くは民主主義の後退を食い止めたいと願っていると思うが、そうではない人々が多いのも確かだ。民主主義そのものを支持していても、現在の民主主義は正しく機能していないと考える人もいる。非民主主義的な人々、現状の民主主義を否定する人々、いずれも現状を支持しない。

SNSプラットフォームを始めとするビッグテック各社は、自社への規制を厳しくしている民主主義はいずれ後退すると予想して、見せかけの協力(ファクトチェックやリテラシー教育の支援、透明性向上など)で時間を稼いで状況が変わるのを待っている。


予想される脅威

2024年の一連の選挙には中露伊の干渉を始めとして、さまざまな脅威が想定される。

ichida20240110a.jpg

2024年の選挙で予想される脅威はいくつかあり、攻撃主体は前述の中露伊に加えて白人至上主義グループ、陰謀論者、極右などの反主流派がある。白人至上主義グループはRMVEs(Racially or Ethnically Motivated Violent Extremists)と呼ばれることもある。これらのグループは、以前の記事で紹介したように重複している。最近公開されたInstitute for Strategic Dialogue(ISD)のレポートでグループの重複は確認されている。これらの反主流派は実態として参加者は重複しており、状況に応じて異なる主張のグループに変わる。

現在の反主流派で目立っているのは白人至上主義グループだ。その中心はホワイトナショナリズム3.0を標榜するActive Club(詳しくは拙ブログ)である。全米34の州で50近くのActive Clubの存在が確認されている。カナダでは12のActive Clubがあり、ヨーロッパには4カ国に46のActive Clubがある。これらは小規模で分散化し、全体像をつかめないものになっている。定期的にMMA(総合格闘技)の大会を開催し、御用達のファッションブランドや音楽レーベルがビジネス化されている。もちろん、武装化し、LGBTの集会を襲撃したり、反移民活動などもおこなっている。反主流派は今回のアメリカの選挙にも介入することが予想され、選挙管理関係者への脅迫や暴行などをおこなう懸念がある。それ以外の国でも白人至上主義グループ、陰謀論者、極右などの反主流派が騒ぎを起こす可能性もある。

サイバー空間での影響工作について中露伊および反主流派はその手口(TTPs)が類似してきており、連携して攻撃をおこなうことも増えてきている。

共通して見られる特徴のひとつは活動の中心を大手SNSではなく、Telegramなどのメッセンジャーや小規模SNSに移行し、そこから大手SNSと連動するようになってきていることだ。昔からあるボットやトロールなどを使っての拡散もあるが、すでに多くの国には中露伊および反主流派の流すナラティブに同調する人々が存在し、勝手に大手SNSに転載して拡散してくれる。これらの人々は前述の非民主主義的な人々、現状の民主主義を否定する人々あるいはRMVEsなどの反主流派だったり、あるいはリベラルな思想の持ち主だったりと多様である。たとえば福島の処理水の問題では日本国内の一部メディアや識者と中国由来のナラティブは同じく処理水放出反対を主張していた。中露伊および反主流派は人々が同調しやすいナラティブをうまく使う。

そして中露伊および反主流派は相互に拡散し、連携するようになっている。

たとえば、アメリカの2022年中間選挙では中露伊は本物のアメリカ人が発信したナラティブを中露が拡散していたことがアメリカ国家情報会議(National Intelligence Council)の「Foreign Threats to the 2022 US Elections」(2023年12月11日に機密扱い解除)で確認されている。銃規制や中絶などアメリカ国内世論を分断させるナラティブがよく利用される。時には敵対する両方を煽ることもある。

プロフィール

一田和樹

複数のIT企業の経営にたずさわった後、2011年にカナダの永住権を取得しバンクーバーに移住。同時に小説家としてデビュー。リアルに起こり得るサイバー犯罪をテーマにした小説とネット世論操作に関する著作や評論を多数発表している。『原発サイバートラップ』(集英社)『天才ハッカー安部響子と五分間の相棒』(集英社)『フェイクニュース 新しい戦略的戦争兵器』(角川新書)『ネット世論操作とデジタル影響工作』(共著、原書房)など著作多数。X(旧ツイッター)。明治大学サイバーセキュリティ研究所客員研究員。新領域安全保障研究所。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ロシアがICBM発射、ウクライナ発表 初の実戦使用

ワールド

国際刑事裁判所、イスラエル首相らに逮捕状 戦争犯罪

ワールド

イスラエル軍、ガザ北部の民家空爆 犠牲者多数

ビジネス

米国は以前よりインフレに脆弱=リッチモンド連銀総裁
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 2
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 3
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 4
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 5
    「ワークライフバランス不要論」で炎上...若手起業家…
  • 6
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 7
    習近平を側近がカメラから守った瞬間──英スターマー…
  • 8
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 9
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 10
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国」...写真を発見した孫が「衝撃を受けた」理由とは?
  • 4
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 5
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 6
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
  • 7
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 8
    建物に突き刺さり大爆発...「ロシア軍の自爆型ドロー…
  • 9
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 10
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    秋の夜長に...「紫金山・アトラス彗星」が8万年ぶり…
  • 7
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 10
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story