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台湾有事は近づいているのか?
対応が遅れる日本
NISCの事件の公開にはアメリカ側の意図を感じる。3年前には当時国家安全保障局長官とサイバー軍司令官を兼任していたポール・ナカソネ将軍と、ホワイトハウスの国家安全保障副顧問が日本に出向いたほど重大な事件と認識されていた。
しかし、その後も一向に日本の状況は改善されなかったため、バイデン就任後の2021年頃から改善するようにプレッシャーをかけはじめた。日本も対応して強化を図るようになった。とはいえそれでもまだまだアメリカの望むものには遠い。さらにプレッシャーをかけるために3年前の時間を公開したのではないかと考えられる。
しかし、日本にはサイバー安全保障の人材がいないという致命的な問題があり、さらに人材がいても育成も活用もできず、他国に比べて低い給与しか提示できない状況だ。そもそもサイバー安全保障の議論の前提となる共通認識ができていない。たとえばNATO CCDCOEがNATOとEU加盟国や関係国を対象にしてサイバー関係の用語と概念が共有状況について行った調査「Comparative study on the cyber defence of NATO Member States」では日本も調査対象だったが、広く共有されている用語の定義が著しく少なかった。日本政府はアメリカのプレッシャーを受けて体制作りに必死だと思うが、前提となる基本的な用語すら共有されていないと話が噛み合わず、空回りする可能性がある。
台湾有事を抑止するには日本に本気で対抗する意志があり、そのための態勢があることを示す必要がある。日本政府から何度もサイバー能力強化のアナウンスが出たことで、やる気は示せたかもしれないが、実態としての態勢はついてきていない。アメリカはいらだち、中国がつけいるすきとなっている。
当面、台湾有事の可能性はアメリカ次第
中国は台湾を併合しようとしており、その選択肢として軍事侵攻がある以上、時が経つほど台湾有事は近づいてくる。ただし、中国にとってその優先度は低いため、このままなら可能性は低いままだ。
台湾有事が起こる可能性が短期的に高まるのはアメリカの態度の変化だ。昨年から台湾有事が取り沙汰されるきっかけになったのがペロシ訪台だったことが、それを象徴している。
アメリカが台湾を独立国にすると明言すれば、台湾有事の可能性は高まる。アメリカの台湾支援が大きく後退すれば可能性は高まる。2024年のアメリカ大統領選の結果、誕生した大統領がそのようなことを言い出さないとは限らない。2024年に行われる台湾総統選の結果も台湾有事の可能性に影響を与えるかもしれないが、アメリカ大統領選の結果の影響の方が大きい。
今後、有事の可能性とは関わりなく、有事への備えをアメリカ、中国、日本が進めるのは確かで、その過程で中国からのハッキングが暴露されたり、情報漏洩が起きたり、あるいは中国が日本で行っている認知戦が暴露されることは増えるだろう。しかし、それらはあくまでも可能性の低い事態を可能性が低いままに留めるための準備にすぎない。当面の台湾有事の可能性はアメリカ大統領選の結果であり、その後のアメリカの対応にかかっている。
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