コラム

2023年はAIが生成したフェイクニュースが巷にあふれる......インフォカリプス(情報の終焉)の到来

2023年01月19日(木)18時47分

ブラジル連邦議会は、ボルソナロ前大統領の支持者が侵入し破壊された(1月8日)......REUTERS/Ricardo MoraesREUTERS/Ricardo Moraes

<2023年はAIを利用したフェイクニュースやディープフェイク(AIによって生成された動画)がネットにあふれ 、情報の終焉(インフォカリプス)と呼ぶべき事態がせまっている......>

2020年にはほぼ実用段階に入っていた技術

2023年にはAIを利用したフェイクニュースやディープフェイク(AIによって生成された動画)がネットにあふれるという予測がある。

AIにおおまかな指示を与えるだけで、複数の人間になりまして、SNSへの投稿をおこない、反応があれば自律的に応答してくれる。必要があればマニフェストや長文の記事も作るし、そのための著名人の登場する偽の画像や動画も用意できる。たとえば習近平の台湾軍事侵攻発表のスピーチ動画を生成し、記事ととともに拡散させることもできる。

言語AI「GPT-3」などはすでに陰謀論や人種差別あるいは反ワクチンといった反主流ナラティブを熟知しているので、Qアノンの陰謀論を利用して特定の政党を貶めるようなサイトのコンテンツ(自動生成した画像や偽の証拠動画つき)の生成はお手のものだ。

疲れを知らず24時間365日、大量の情報を発信し、必要に応じて画像や動画をアップロードし、反応に迅速に応答する。そして誹謗中傷にあっても決して心が折れることがなく、一貫性があり、相手の発言を忘れない。無敵だ。

2020年の段階でこれらのすべてをほとんどお金をかけずに個人でも実行できるようになっていた。たとえば2019年にサイバーセキュリティ会社FireEyeの大学院生のインターンがAIを3カ月訓練して2016年のアメリカ大統領選でロシアがおこなったのと同等のデジタル影響工作をおこなえるようにしている。

2020年にはGPT-3を使ったボットが大手SNS、Redditに投稿と反応への返信をおこなったが、人間ではないと気づかれずに1週間活動できた。1分間に1回投稿していていたというから、デジタル影響工作に利用された時のインパクトは大きそうだ。

一部の識者は2020年のアメリカ大統領選でディープフェイクが猛威を振るうと予測したが、時代はまだ技術に追いついていなかったようだ。3年経って、これらのAIはより使いやすく手軽になった。2023年はAI支援デジタル影響工作が本格的に猛威をふるい出すと言われている。

その手軽さゆえに国家だけではなく、金目当ての企業、犯罪者、個人が使い出すのだ。AIを使ったネット世論操作=AI支援デジタル影響工作ツールは戦術核の威力を持った火炎ビンのようなもので、その利用は「情報テロ」とでもいうものだ。本稿の情報の出典については拙noteでご紹介している。

インフォカリプス(情報の終焉)の到来

しかし、こうした研究や警告があったものの、AI支援デジタル影響工作の危険性は一部に知られるに留まっていた。AIによって職が奪われたり、自律型兵器が開発される危惧に関する記事を見かけることはあっても、AI支援デジタル影響工作ツールについての記事はあまりなかった。
しかし、失職や兵器に比べると直接的な被害は少ないものの、社会を分断し、メディアや情報への信頼が失われ、「インフォカリプス:インフォメーション+アポカリプス(黙示録)」をもたらす。インフォカリプスはミシガン大学の研究者アビーブ・オバディアの造語で、大量の偽情報があふれ、もはや情報の真偽を見分けることすらあきらめてしまう状態を指す。

すでにさまざまな調査でニュース忌避やニュースを信頼性ではなく利便性(タイパ)で選択する傾向が見られるようになっており、インフォカリプスはすぐそこにある未来だ。最後の一押しで世界をインフォカリプスに突き落とすのがAI支援デジタル影響工作の可能性が高い。

プロフィール

一田和樹

複数のIT企業の経営にたずさわった後、2011年にカナダの永住権を取得しバンクーバーに移住。同時に小説家としてデビュー。リアルに起こり得るサイバー犯罪をテーマにした小説とネット世論操作に関する著作や評論を多数発表している。『原発サイバートラップ』(集英社)『天才ハッカー安部響子と五分間の相棒』(集英社)『フェイクニュース 新しい戦略的戦争兵器』(角川新書)『ネット世論操作とデジタル影響工作』(共著、原書房)など著作多数。X(旧ツイッター)。明治大学サイバーセキュリティ研究所客員研究員。新領域安全保障研究所。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

豊田織機の非公開化報道、トヨタ「一部出資含め様々な

ビジネス

中国への融資終了に具体的措置を、米財務長官がアジア

ビジネス

ベッセント長官、日韓との生産的な貿易協議を歓迎 米

ワールド

アングル:バングラ繊維産業、国内リサイクル能力向上
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 7
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 8
    ロケット弾直撃で次々に爆発、ロシア軍ヘリ4機が「破…
  • 9
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 10
    ビザ取消1300人超──アメリカで留学生の「粛清」進む
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story