コラム

2023年はAIが生成したフェイクニュースが巷にあふれる......インフォカリプス(情報の終焉)の到来

2023年01月19日(木)18時47分

インフォカリプスが進行することによって、制度や政府に対する信頼が低下し、社会は不安定になる。その結果、陰謀論や極右、あるいは白人至上主義を信じた人々の過激な行動が発生しやすくなる。2021年のアメリカ連邦議事堂襲撃事件、2022年のドイツのクーデター未遂事件、2023年のブラジルの連邦議事堂等襲撃事件は序章でしかない。

また、選挙への影響も甚大だ。すでに世界各国の選挙でデマや偽情報が飛び交うようになっており、先の事件が起きた国々では選挙に陰謀論などを信奉する候補者が登場、当選している。

さらにAI支援デジタル影響工作は通常のAI利用において起こる致命的な問題を克服していることも見逃せない。AIはまちがえることもあるし、倫理的に許容できない判断をすることもある。通常は人間が確認して補正しなければならない。しかし、デジタル影響工作に用いる限りにおいては、これらは許容される。多くのデジタル影響工作の目的は、分断と混乱を引き起こすことなのだから問題にならないのだ。

誤りと倫理的課題への対処が不要というのは既存のメディアに対して圧倒的に有利である。メディア業界では急速にAIの利用が進んでいる。たとえばAP通信は2014年に企業の決算報告書を自動生成し始め、1年でわずか300社から4,000社に取材範囲を拡大している。自動生成記事は人間の記事よりも誤りが少なく、休む必要がない。ただし、とんでもない間違いをしでかすこともあるので人間のチェックが不可欠となっている。

AI支援デジタル影響工作によって生み出させる動画や記事に比べると、確認の工程が必要な一般メディアの記事はコストも時間も余分にかかってしまうのだ。ファクトチェックはさらに時間がかかるため、AI支援デジタル影響工作に対してファクトチェックで対抗するのは、バケツで海の水をすくえば海は干上がると信じるようなものだ。

現状のデジタル影響工作でも対処が難しいのに、AI支援デジタル影響工作でより本物らしいコンテンツが大量生産されるようになることは本格的なインフォカリプス時代の到来を招くだろう。

これから起こること

当面起こるのは、自動生成コンテンツの急増である。

・AI支援デジタル影響工作ツールによって生み出されたディープフェイクがYouTubeなどの動画サイトにあふれる。政治家や俳優などの著名人を登場させる動画、あるいは知名度の高いメディア(BBCやCNN、NYTなど)を模倣、利用したものが多くなる。また、事件やイベントなどを捏造した動画も多数出回るだろう。

・一見まっとうに見えるが、AI支援デジタル影響工作ツールによって生成されたコンテンツだけでできているニュースサイトやまとめサイトが増加する。さまざまなニュースをまとめて記事にするAIはすでに実用化されおり、まっとうなニュースの要約と陰謀論などを混在させて信頼させやすくするサイトを作れる。そして、サイト同士で相互に参照し合うことによって信憑性を高めるメディア・ミラージュ(蜃気楼)も増加する。一般的なメディア・リテラシーは複数の情報源で確認することを推奨しているのでこのメディア・ミラージュは効果がある。

・人間になりすましたAIボットがSNSにまぎれこんで、投稿や応答をおこなう。投稿にあたっては上記のサイトや動画を参照するようになり、主張の根拠に利用することでメディア・ミラージュ効果を高められる。

さらにその次に起こるのは、次のようなことだ。

プロフィール

一田和樹

複数のIT企業の経営にたずさわった後、2011年にカナダの永住権を取得しバンクーバーに移住。同時に小説家としてデビュー。リアルに起こり得るサイバー犯罪をテーマにした小説とネット世論操作に関する著作や評論を多数発表している。『原発サイバートラップ』(集英社)『天才ハッカー安部響子と五分間の相棒』(集英社)『フェイクニュース 新しい戦略的戦争兵器』(角川新書)『ネット世論操作とデジタル影響工作』(共著、原書房)など著作多数。X(旧ツイッター)。明治大学サイバーセキュリティ研究所客員研究員。新領域安全保障研究所。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

再送(18日付配信記事)-米大手テック企業の債券発

ワールド

焦点:国際貿易支配へ、「トランプ後」にらむ中国の戦

ビジネス

英1月小売売上高、前年比+4.5% 22年2月以来

ビジネス

ユーロ圏総合PMI、2月速報51.9に上昇 製造業
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ウクライナ戦争4年 苦境のロシア
特集:ウクライナ戦争4年 苦境のロシア
2026年2月24日号(2/17発売)

帰還兵の暴力、ドローンの攻撃、止まらないインフレ。国民は疲弊しプーチンの足元も揺らぐ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より日本の「100%就職率」を選ぶ若者たち
  • 2
    海外(特に日本)移住したい中国人が増えている理由...「落葉帰根」派も「落地生根」派も
  • 3
    中道「大敗北」、最大の原因は「高市ブーム」ではなかった...繰り返される、米民主党と同じ過ち
  • 4
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 5
    中国政府に転んだ「反逆のアーティスト」艾未未の正体
  • 6
    ディープフェイクを超えた「AI汚染」の脅威──中国発…
  • 7
    IMF、日本政府に消費減税を避けるよう要請...「財政…
  • 8
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く…
  • 9
    ウクライナ戦争が180度変えた「軍事戦略」の在り方..…
  • 10
    「ヒンメルならそうした」...コスプレイヤーが消火活…
  • 1
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 2
    「罠に嵌められた」と主張するが...欧州で次々と摘発される中国のスパイ、今度はギリシャで御用
  • 3
    【銘柄】マイクロソフトの株価が暴落...「AI懸念」でソフトウェア株総崩れの中、投資マネーの新潮流は?
  • 4
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 5
    「ヒンメルならそうした」...コスプレイヤーが消火活…
  • 6
    なぜ「あと1レップ」が筋肉を壊すのか...「高速パワ…
  • 7
    「目のやり場に困る...」アカデミー会場を席巻したス…
  • 8
    オートミール中心の食事がメタボ解消の特効薬に
  • 9
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 10
    川崎が「次世代都市モデルの世界的ベンチマーク」に─…
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 3
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 4
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 5
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 6
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 7
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 8
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 9
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 10
    「罠に嵌められた」と主張するが...欧州で次々と摘発…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story