コラム

2023年はAIが生成したフェイクニュースが巷にあふれる......インフォカリプス(情報の終焉)の到来

2023年01月19日(木)18時47分

・作戦実施の簡便化と複合化

おおまかな指示を出すだけで、ひとつのサービスだけでなく、複数のサービスに対してコンテンツの自動生成と配信、応答をおこなうことができるようになる。相互の参照や投稿のタイミングの調整までおこなってくれる。

たとえば、作戦実施の数カ月前に、「3月1日から3月20日まで間、○○候補がQアノン信者であることを拡散し、信用と評価を落とす」といった指示をおこなうだけで、自動的にサイトを作り、コンテンツをアップし、YouTubeとTikTokに自動生成動画を投稿し、インスタグラムに自動生成写真を掲載し、SNSでそれとリンクする発言と応答を行い、ピークを設定してそれに向けて投稿量やコンテンツ(偽の告発動画のアップなど)などを調整してくれる。

・デジタル影響工作請負企業での利用

現在、さまざまな国の政治家や政党がデジタル影響工作を民間企業に外注している。デジタル影響工作を請け負う企業は増加しているものの、質の低下が課題になっている。AI支援デジタル影響工作ツールを用いることで一定の品質を担保したデジタル影響工作を実施できるため、こうした請負企業での利用が拡大する可能性が高い。専門業者に利用されることで、さらにブラッシュアップされ、利用範囲が拡大する。

デジタル影響工作請負企業の利用を目的とした、AI支援デジタル影響工作ツールのクラウドサービスも登場する可能性が高い(おそらくイスラエルあたりの企業)。

・個人での利用拡大

AI支援デジタル影響工作ツールを個人が利用することで、特定の人物や団体を攻撃し、社会的信用を毀損することが容易になる。AI支援デジタル影響工作ツールのクラウドサービスが実現すれば利用する個人も増加するだろう。あるブログに触発された人々が複数の弁護士に対して13万件の懲戒請求をおこなった事件があったが、それをはるかに上回る規模の事件を引き起こすことができる。

政治家に対する批判、企業に対するクレーム、個人に対する誹謗中傷などさまざまな用途に利用できるのだ。

◇ ◇ ◇

情報の終焉、インフォカリプスと呼ぶべき事態がせまっている。最後に付け加えると、インフォカリプスはグーグルやMetaなどのビッグテックにとっては、自社サービスへのアクセスを増大させ、利用者を依存させる巨大なビジネス・チャンスだ。また、国内の情報を強権で統制できる権威主義国はインフォカリプスを抑えられるため、インフォカリプスで不安定化する民主主義国より優位に立てる。

インフォカリプスは民主主義にとっては悪夢だが、権威主義国とビッグテックにとってはパラダイスなのだ。権威主義国が世界の多数派であり、ビッグテックが人々のコミュニケーションに多大な影響を持っている限り、インフォカリプスは避けようもなくやってくる。AI支援デジタル影響工作ツールはそれを加速させるだけにすぎない。


プロフィール

一田和樹

複数のIT企業の経営にたずさわった後、2011年にカナダの永住権を取得しバンクーバーに移住。同時に小説家としてデビュー。リアルに起こり得るサイバー犯罪をテーマにした小説とネット世論操作に関する著作や評論を多数発表している。『原発サイバートラップ』(集英社)『天才ハッカー安部響子と五分間の相棒』(集英社)『フェイクニュース 新しい戦略的戦争兵器』(角川新書)『ネット世論操作とデジタル影響工作』(共著、原書房)など著作多数。X(旧ツイッター)。明治大学サイバーセキュリティ研究所客員研究員。新領域安全保障研究所。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

中国、今後5年間で財政政策を強化=新華社

ワールド

インド・カシミール地方の警察署で爆発、9人死亡・2

ワールド

トランプ大統領、来週にもBBCを提訴 恣意的編集巡

ビジネス

訂正-カンザスシティー連銀総裁、12月FOMCでも
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 2
    ヒトの脳に似た構造を持つ「全身が脳」の海洋生物...その正体は身近な「あの生き物」
  • 3
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃度を増やす「6つのルール」とは?
  • 4
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 5
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 6
    「不衛生すぎる」...「ありえない服装」でスタバ休憩…
  • 7
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 8
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 9
    「腫れ上がっている」「静脈が浮き...」 プーチンの…
  • 10
    『トイ・ストーリー4』は「無かったコト」に?...新…
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前に、男性が取った「まさかの行動」にSNS爆笑
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 8
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 9
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 10
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story