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防衛省認知戦の大きな課題──国内向け認知戦、サイバー空間での現実との乖離
国内向け世論操作の実態と乖離した計画
防衛省が世論操作を行うことの是非は、さまざまな形で議論されているのでここでは行わない。気になるのは効果的に実施、運用できる体制の有無である。結論から言うと、そのような体制は現在ないし、今後も作ることは難しい。したがってこうした作戦を効果的に運用できる可能性は低い。
その理由は簡単で、国内向けの世論操作を効果的に行うにはデジタル影響工作を含む統合的なシステムを構築した方がよいからだ。デジタル影響工作を行っている中国やロシアなどを始めとする各国では、図の3つ要素によって効果的に国民を管理・誘導している。デジタル影響工作は言動の誘導であり、その効果をリアルタイムで測定し問題があれば特定・排除する仕組み、および飴と鞭=賞罰で従わせる仕組みと組み合わせて利用されている。認知戦はステルスマーケティングを含むが、より効果をあげるにはより広い統合的な仕組みが必要なのだ。他国に対して行う場合も同様だ。
デジタル影響工作だけを見て、その方法論を真似ても同じ効果が出るとは限らない。公開されている防衛省の計画の中にこうした仕組みは含まれていない。多くの権威主義国も同様のことをやりたがっており、中露はこのシステムを海外に販売している。
この仕組みは民主主義的価値感と相容れないため、アメリカなどの各国は導入することが難しい。とはいえ近年のファーウェイやTikTokの排除に向かうアメリカの姿勢は中露の唱えるサイバー主権に近く、民主主義的な価値感から遠ざかりつつある。民主主義を標榜する各国が中露と同じ社会システムを導入する可能性も低くはないと考えることもできる。
防衛3文書からわかる現実から乖離した認知戦の想定
今後、日本が認知戦への対処を行うことを記した防衛3文書もこうした統合的な仕組みについて触れていない。まだ「動向調査」すら行っていない状態なので仕方がないとも言えるが、その段階で文書に記載してよいのか気になる。また、非国家アクターについての言及がないことも近年のサイバー空間での戦闘の実態を反映しないものとなっている。文書全体としてはまとまっているものの、全体的にグローバルノース主流派の視点で語られており、中露を始めとする権威主義国の行動をとらえきれていない問題がありそうだ。「見えていない」ことが多いのだ。
非国家アクターは文字通り、国家機関ではない主体を指し、民間企業、犯罪集団、テロ集団。NPOなどさまざまなものが含まれる。これらの多くはその活動を制限する国際法上の規定がなく、また特定の国のグループとわかってもその国の責任を追及することが難しいことも多い。
ロシアではサイバー犯罪集団であるランサムウェアグループが世界各国でサイバー攻撃を行っており、アメリカでは白人至上主義過激派グループがロシアで軍事訓練を行い、異なるグループがウクライナとロシアの両方から戦闘に参加している。日本ではアメリカの白人至上主義過激派グループの危険性が知られていないが、過去の記事で紹介したようにアメリカ国内では安全保障上の優先課題となっており、国内の犠牲者の数はイスラム過激派の3倍にのぼる。彼らが海外で戦闘行為をしてもアメリカ政府が責められることはほとんどない。
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