コラム

アメリカが直面する内戦の危機と中絶問題──武装化したQAnonやプラウドボーイズ

2022年08月19日(金)16時50分

中絶反対派の暴力化が問題になっている...... REUTERS/Aude Guerrucci

<カリフォルニア大学のグループが行った調査で、半数以上が数年以内にアメリカで内戦が起きると回答した......>

日本ではほとんど報道されることはないが、アメリカでは多くの国民が内戦を現実起こり得る脅威として認識している。カリフォルニア大学のグループが行ったアメリカ全土を対象にした調査では、半数以上が数年以内にアメリカで内戦が起きると回答したほどである。

アメリカが内戦の危機に直面していることを示した書籍『How Civil Wars Start』はベストセラーになっている。著者のBarbara Walterは30年間内戦を研究し、CIAの諮問機関Political Instability Taskforceに所属していたこともある。この分野の専門家の指摘とあって、さまざまなメディアで大きく取り上げられ、注目されている。

世界各地の武力衝突をモニターしているArmed Conflict Location & Event Data Project (ACLED)は2021年1月6日にアメリカで起きた連邦議事堂襲撃を事前に警告していた。そのACLEDが今年に入ってアメリカについて3つのレポートを公開している。

中間選挙に先だって極右などの過激な運動が広がる、反LGBT+運動の増加と暴力化、もっとも最近のレポートでは中絶問題に関係したデモなどに武装化グループが中絶反対派として参加し、暴力化が進んでいることを指摘している。いずれも極右、陰謀論者、白人至上主義などのグループが引き起こすものだ。最近では中絶問題が拡大し、アサルトライフルなどで武装化したグループが中絶擁護グループを襲撃する事態となっている。

近著の『ウクライナ侵攻と情報戦』(扶桑社新書)でも紹介したように、アメリカではこうしたグループの勢力拡大と武装化が進んでおり、さまざまな社会問題に顔を出すようになっている。たとえば、反ワクチン、親ロシア反ウクライナなどの活動にもこれらのグループが参加している。プーチンとトランプを支持していることが多く、先日はトランプ支持者がFBIの支局を襲撃しようとして射殺される事件も起きた。現在のアメリカはいつ暴動が起きてもおかしくない状況なのだ。

政治的暴力のターゲットとなった中絶問題

アメリカ国内で中絶関連のデモは増加傾向にある。2021年は2020年比で倍以上の129%、2022年は2021年比で6月の段階で51%増加している。アメリカでは、反中絶をプロライフ、中絶の権利を擁護することをプロチョイスと呼んでおり、プロチョイスデモがプロライフデモの3倍くらい行われている。

一方、プロライフデモは、2021年に2020年比で131%増加し、2022年6月の段階で昨年比69%増となっている。問題なのは、暴力的、破壊的なものになったデモの70%以上がプロチョイスデモに対するカウンターだったことだ。

さらにプラウドボーイズ、パトリオット・フロント、グロイパーズのような極右⺠兵や過激なグループが関与した中絶関連イベントは、2021年に2020年比で150%増加し、2022年6月の段階で前年比90%増加となっている。銃器での武装も増えている。たとえば2022年6月28日、アイダホ州議事堂の外で、アサルトライフルで武装したプラウドボーイズなど200人の中絶反対集会と、最高裁判決に反対するデモの参加者の間で戦闘が発生している。また、最高裁判決当日の夜には、極右組織Three Percentersが、ゴルゴ13が愛用していたことで知られるアサルトライフルM16で武装していた。

プロフィール

一田和樹

複数のIT企業の経営にたずさわった後、2011年にカナダの永住権を取得しバンクーバーに移住。同時に小説家としてデビュー。リアルに起こり得るサイバー犯罪をテーマにした小説とネット世論操作に関する著作や評論を多数発表している。『原発サイバートラップ』(集英社)『天才ハッカー安部響子と五分間の相棒』(集英社)『フェイクニュース 新しい戦略的戦争兵器』(角川新書)『ネット世論操作とデジタル影響工作』(共著、原書房)など著作多数。X(旧ツイッター)。明治大学サイバーセキュリティ研究所客員研究員。新領域安全保障研究所。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ロシア、中距離弾でウクライナ攻撃 西側供与の長距離

ビジネス

FRBのQT継続に問題なし、準備預金残高なお「潤沢

ワールド

イスラエル首相らに逮捕状、ICC ガザで戦争犯罪容

ビジネス

貿易分断化、世界経済の生産に「相当な」損失=ECB
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 5
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    若者を追い込む少子化社会、日本・韓国で強まる閉塞感
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 10
    中国富裕層の日本移住が増える訳......日本の医療制…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story