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ロシアが情報戦で負けたという誤解
暴力化するグローバルサウスと、グローバルノースの反主流派
グローバルサウスと、グローバルノースの反主流派は数の面で脅威になってきているだけではない。武装化し、暴力による現状の変更を求めるようになってきている。
現在、世界でもっとも多い統治形態は独裁主義あるいは権威主義となっている。2020年まで民主主義から権威主義への移行の多くは、選挙によって行われてきた。選挙で権威主義的傾向を持つ人物が選ばれ、徐々に制度や法律を変えて権威主義に移行するのだ。クーデターなど暴力による変更は平均すると年間1件ちょっとだった。しかし、2021年になって、暴力による体制変更が6件に増加した。ミャンマーのクーデターを記憶している方もいるだろう。失敗したものの、2021年1月にアメリカで起きた議事堂襲撃暴動も暴力によってトランプが落選したという結果を変えようと試みたものと言える。
世界の武装化と危険の状況をモニターしているArmed Conflict Location and Event Data Project( ACLED)は、2021年1月の暴動の可能性を事前に検知して警告を発していた。そして、2022年5月3日にアメリカ中間選挙に先立って、反主流派の武装化と暴力的イベントについて警告するレポートを公開した。アメリカ国内では暴力による社会、政治変化のきざしが出て来ている。
私は2018年の段階でアメリカ国内はすでにハイブリッド内戦とも言える状態に入りつつあると書いた(『フェイクニュース 新しい戦略的戦争兵器』角川新書)が、全くと言っていいほど対策されていなかったおかげで悪化の一途をたどっている。
先日公開されたNATOの戦略コンセプトは、いまだにロシアと中国を主たる敵としていた。しかし、外の問題よりも内側から破壊されることへの対策は考えられていない。グローバルノースの反主流派はロシアや中国が生み出したのではなく、グローバルノース各国の国内で発生したものだ。それを国外勢力に利用されたに過ぎない。今回、コロナ禍で親ロシア派が拡大するのを防げず、ウクライナ侵攻でいいように利用されるのを見過ごしてしまったことからわかるように検知も防御もできていない。
課題の多い日本の今後
民主主義を標榜するグローバルノースは、数の面でも暴力化という面でも危機に直面している。グローバルノースの一員である日本も難しい立場に立たされることになるだろう。
くわえて日本はグローバルノースであって欧米ではなく、アジアであってグローバルサウスではない数少ない国だ。同じ境遇の国は韓国くらいだ。グローバルノースとグローバルサウスのどちらの情報やネットワークから距離を置かれており、限定された情報と国際連携しかない。グローバルノースなのに、国際世論に影響を与えるメディアも著名人もない。
日本がグローバルノースあるいはアジアで影響力のある立場になりたいなら、ミャンマーのクーデターやウクライナ侵攻は外交の大失態ととらえるべきなのだが、寡聞にしてそういう話を聞いたことがない。
防衛省は戦略的に情報発信する仕組みを構築している。関係あるかどうかわからないが私のところには複数の関係機関から「海外で発信されている日本に関する誤った情報をリアルタイムで収集し対処する」仕組み作りのご相談をいただいた。誤りを正してもその効果はきわめて限定的で、場合によっては逆効果になることもある。なにかの間違いであってほしい。課題は山積みである。
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