- HOME
- コラム
- デジタル権威主義とネット世論操作
- 内部告発で暴露されたフェイスブックの管理と責任能力…
内部告発で暴露されたフェイスブックの管理と責任能力の欠如
国家以外の地政学上のアクターが跋扈する新しい時代
こうした一連のMETA社の問題は、すでに書いたようにその影響力に比較して管理統治能力が欠落していることに起因しており、それはそのパワーに見合ったビジョンを持っていないことに由来している。企業としての理念はあるかもしれないが(それもまともに機能していないようだが)、地政学上のパワーに釣り合うビジョンはない。そもそも地政学上のアクターになるつもりもなかったし、なりたいとも思っていなかった。そしてなってしまった今でも、できるだけそれを認めたくないと考えている。このような状態では責任ある対応は望むべくもない。
こうした一連の問題が露見した後でMETA社がやったことと言えば社名の変更と、メタバース事業の展開の宣言だ。あとは、国会での追求を逃れるための工作くらいだ。The Wall Street JournalがMETA社の政治工作を記事にしている。
企業としては問題ないかもしれないが、現在持っているパワーと負っている責任にはそぐわない。META社がフェイスブックのアルゴリズムを変えるだけでその国のメディアは滅び、差別が悪化し、暴動が起きる。それを止めるものがなにもないことは、昨年1月のアメリカ議事堂の暴動や、グローバル・サウス諸国での既存メディアのビジネスの破壊、ミャンマー、カンボジア、インド、フィリピンのような専制政治の支援(META社は各国にサポート要員を送っていた)と結果としての民主主義体制の毀損、ヘイトや犯罪(麻薬、人身売買など)の拡大でわかっている。起きてから批判することはできても、起きることは止められていない。
地政学的脅威には地政学的対処でなければ効果がない、と言われる。その通りだとすれば、対症療法であるファクトチェックやリテラシーなどではなく、地政学的対処が必要となる。META社に対して考えられるのは強力な規制や分割などだが、これについてもイアン・ブレマーはその効果は限定的と分析している。現在、META社などのビッグテックに対する効果的な地政学的対処方法は見つかっていないのだ。それがない限りは、混乱はますます広がり、政情は不安定化する一方になるだろう。そして、これまでの傾向を見る限り、保守あるいは右派のグループが優遇され、ヘイトや陰謀論が増殖することになる。
日本でもフェイクニュースについて取り上げられることが増えてきたが、ほとんどは現象としての個々のフェイクニュースを取り上げるものが多い。しかし、メディアのエコシステムやビッグテックの地政学的位置づけを考えなければ全体像を把握できない。ミャンマー、カンボジア、インド、フィリピンで起こったことは他人事ではない。日本でも特定の政治勢力とビッグテックが結びついてメディアのエコシステムを支配する事態が起きないとは言えない。こうした視点とそれに基づく対策がなければ、混乱は収まることがなく悪化するばかりだろう。
中国が仕掛ける「沖縄と台湾をめぐる認知戦」流布される5つの言説 2024.10.30
SNSで燃え上がる【偽・誤情報の拡散】...カギとなる対抗する力とは? 2024.09.18
英暴動は他人事ではない......偽・誤情報の「不都合な真実」 2024.08.16
中国が台湾併合する非軍事シナリオを米シンクタンクが公開......日本が核武装? 2024.06.12
見直しが始まった誤・偽情報対策 ほとんどの対策は逆効果だった? 2024.05.08
検索結果をプロパガンダと陰謀論だらけにするデータボイド(データの空白)脆弱性 2024.04.08
2024年、SNSプラットフォームが選挙を通じて世界を変える 2024.03.15