コラム

タリバンのネット世論操作高度化の20年の軌跡

2021年10月13日(水)20時00分

タリバンのSNSは20年前に比較すると、はるかに高度になった REUTERS/Jorge Silva

<タリバンは針の穴を通すようにSNSのルールをうまくかいくぐって利用し、それが洗練され、高度であることから、少なくともPR企業が支援しているのだろう...... >

2021年夏、タリバンの攻勢が強まるにつれ、ツイッターでのプロパガンダ活動も活発になっていった。デジタルフォレンジック・リサーチラボのレポートはタリバンのスポークスマンであるZabiullah Mujahid(@Zabehulah_M33)のツイートのエンゲージメントが8月15日のカブール制圧でピークに達したとしている。

40万人以上のフォロワーを持つこのアカウントに対するエンゲージメントは、いいね!やリツイートだけではなかった。ツイートの74%は他のツイッターアカウントに「copypasta」(コピペ)されていた。「copypasta」のほとんどは1~2分以内に行われており、自動的にツイートされたものである可能性が高い。

タリバンはSNS企業のテイクダウンを回避することに精通しており、「copypasta」を多用するのもそのひとつと推測されている。スポークスマンのアカウントが停止されても、ツイートが残るようにするためだ。また、ハッシュタグを多数使い、ツイッターのトレンドに入りやすくするテクニックも弄していたという。

タリバンのSNSは20年前に比較すると、はるかに高度になった。複数のSNSを協調させてプロパガンダを増幅し、ポジティブなイメージを広げようとしている。

さらにSNSを通じて世界への影響力を強める可能性もForbesなどで指摘されているが、SNS企業はタリバンをサービスから排除すべきか否かという課題に直面している。対応が後手に回る中で、すでにさまざまな影響が出始めている。

タリバンが過激派に火をつけた

タリバンの勝利はタリバンだけに留まらず、さまざまところに波紋を広げている。そのひとつが極右などの過激派の活性化だ。

BuzzFeed Newsデジタルフォレンジック・リサーチラボおよびThe Washington Postによると、タリバンのアフガニスタン征圧は、ネオナチや極右ユーチューバー、右派のプラウドボーイズ、ホワイトナショナリストなどから賞賛され、「我々ももっと大きなことができるはずだ」といった過激派の野望に火をつけた。

デジタルフォレンジック・リサーチラボによれば、タリバンと過激派の主張は、女性への差別、LGBTQへの敵意、中絶への反対、原理主義的な宗教政府への支持など、いくつかの点で一致している。どちらも欧米の社会的進歩が文化や政治的の堕落の原因であると考え、その原因を作った民間や政府の団体および人物に対して深い恨みを抱いている。

BuzzFeed Newsの記事によると、これらの過激派グループは、タリバンの成功を勧誘や組織化に利用している。勧誘のターゲットは、アメリカの退役軍人や請負業者である。アフガニスタンでのアメリカの撤退に不満を抱いている一部の者を狙っているという。

アメリカ国土安全保障省は2021年8月13日の段階で、Terrorism Advisory System (NTAS) Bulletin(をリリースし、こうした動きに対して警告を発している。

プロフィール

一田和樹

複数のIT企業の経営にたずさわった後、2011年にカナダの永住権を取得しバンクーバーに移住。同時に小説家としてデビュー。リアルに起こり得るサイバー犯罪をテーマにした小説とネット世論操作に関する著作や評論を多数発表している。『原発サイバートラップ』(集英社)『天才ハッカー安部響子と五分間の相棒』(集英社)『フェイクニュース 新しい戦略的戦争兵器』(角川新書)『ネット世論操作とデジタル影響工作』(共著、原書房)など著作多数。X(旧ツイッター)。明治大学サイバーセキュリティ研究所客員研究員。新領域安全保障研究所。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

セブン&アイ、クシュタールと秘密保持契約を締結 資

ワールド

米・ウクライナ、鉱物資源協定に署名 復興投資基金設

ワールド

トランプ氏「パウエル議長よりも金利を理解」、利下げ

ワールド

一部の関税合意は数週間以内、中国とは協議していない
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
メールアドレス

ご登録は会員規約に同意するものと見なします。

人気ランキング
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 7
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 8
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 9
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 10
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story