コラム

日本が完全に出遅れた第三次プラットフォーム戦争

2021年05月07日(金)16時50分

ネット上のガバナンスを巡る各国の思惑と混乱

いささか遠回りになるが、第三次プラットフォーム戦争の背景となっている経緯をおおまかにご紹介しておきたい。全ての事象や団体や報告書の説明を加えると莫大な量になってしまうため、そちらは別途拙ブログにまとめておいたので、関心ある方はご参照いただきたい。

ichida0507d1.jpgichida0507d2.jpgichida0507d3.jpg

ネット上のガバナンスにおいて、最初からプラットフォーム・ガバナンスが大きな注目を集めてきたわけではなかった。ネット上のガバナンスは、当初安全で安定したサイバー空間を作り、維持することを目的としており、サイバー攻撃やサイバー犯罪あるいは安全保障の観点からみた課題が主だった。これと並行して技術的および運用上の体制も課題となっていた。

インターネットの重要性の高まりにともない、2000年以降、国際的なガバナンスの必要性が認識されるようになった。その中で民間企業や市民団体など関係者を巻き込んだマルチステークホルダー形式での議論の重要性も高まった。関係者が多岐にわたり、それぞれが無視できない影響力を持っていることもあるが、アメリカの巨大プラットフォーム企業が国際機関の意志決定に関与する仕組みを求めていたことも要因と考えられる。

2010年代に入ると、それまで中心となっていたアメリカとヨーロッパを中心とするグローバル・ノース以外の国々(主としてグローバル・サウス)の発言力、影響力が高まった。その結果、国際機関の決定がグローバル・サウスの動きに左右されることも起こるようになる。

ネット上のガバナンスは、アメリカを中心とする「自由で開かれたインターネット」を主張するグループと、中国やロシアなど「サイバー主権+統制されたインターネット」を主張するグループの二つに分かれてきた。

2013年、エドワード・スノーデンがアメリカの広範な監視活動を暴露したことで、ネット上の監視活動や人権侵害が強く意識されるようになり、グローバル・ノースによるインターネットの独占への反発も高まった。これにともなって人権などを含んだ広範な規範作りを求める動きが増え、技術的な課題、運用上の体制も政治色を帯びてきた。さまざまな分野でプラットフォーム化が進み、民間企業もつ影響力が増大していった。

プロフィール

一田和樹

複数のIT企業の経営にたずさわった後、2011年にカナダの永住権を取得しバンクーバーに移住。同時に小説家としてデビュー。リアルに起こり得るサイバー犯罪をテーマにした小説とネット世論操作に関する著作や評論を多数発表している。『原発サイバートラップ』(集英社)『天才ハッカー安部響子と五分間の相棒』(集英社)『フェイクニュース 新しい戦略的戦争兵器』(角川新書)『ネット世論操作とデジタル影響工作』(共著、原書房)など著作多数。X(旧ツイッター)。明治大学サイバーセキュリティ研究所客員研究員。新領域安全保障研究所。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

フィンランドも対人地雷禁止条約離脱へ、ロシアの脅威

ワールド

米USTR、インドの貿易障壁に懸念 輸入要件「煩雑

ワールド

米議会上院の調査小委員会、メタの中国市場参入問題を

ワールド

米関税措置、WTO協定との整合性に懸念=外務省幹部
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 8
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 9
    【クイズ】2025年に最も多くのお金を失った「億万長…
  • 10
    トランプが再定義するアメリカの役割...米中ロ「三極…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 3
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥーが解明される...「現代技術では不可能」
  • 4
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 7
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story